アフリカの仮想通貨とアフロ・フューチャリズム構想
◆Akonのアフリカ仮想通貨都市構想
2018年、米国の歌手Akon(エイコン)が独自の仮想通貨Akoinによる取引をベースにした仮想通貨国家「Akon City」の構想を発表。今年7月、Akoinに関する白書が公開され、11月にはAkoinが仮想通貨取引所Bittrex Globalにて取り扱いが開始した。白書において、「Akoinはアフリカをはじめとする成長経済における起業家のためにデザインされた、ツール・サービスのエコシステムをベースにしたブロックチェーン技術を活用した仮想通貨」と説明されている。起業家(ユーザー)が、ドルやナイラのようなフィアット通貨(不換通貨)やプリペイト携帯の通話時間(エアタイム)などアフリカで一般的な通貨を仮想通貨へと自在に変換し、Akoinを使って、エコシステムにおけるDApps(Decentralized Apps、ブロックチェーンを用いたアプリ)や通常アプリを通じた多様なサービスを利用したり、新サービスを提供したりすることを可能にするというのが基本構想だ。
Akoinのエコシステム限定仮想通貨は、Akoin Utility Tokenと呼ばれ、Atomic SwapというSCP(ステラ・コンセンサス・プロトコル)を用いた迅速さを特徴とする方式により、決済や両替などの取引が可能だ。また、プラットフォームでは、どの仮想通貨も普遍的に管理できる電子ウォレットAkoin Multi-Currency Walletを提供。Akoin DApp/App Marketplaceでは、App Storeを使うような感覚で、金融サービスやコンテンツ、ヘルスケアなどのサービスを利用することができる。
Akoin白書では、11のユースケースが紹介されている。Akoinの説明にもあるように、とくにアフリカの若い起業家やフリーランス労働者が直面する課題をできるだけ取り除く、もしくは彼らの活動を支えるためのインフラ整備を主眼に置いている。ユースケースの一つは、すでにBitMinutesとパートナー契約を結んでいる事例である、プリペイト携帯電話の通話時間(エアタイム)のチャージだ。エアタイムのチャージや、友人・知人へのエアタイム送付は、アフリカ各地で一般的に行われている取引である。つまりアフリカの人々の多くが、エアタイムというデジタル通貨の取引に慣れているため、仮想通貨へのシフトが容易である可能性が高い。エアタイムは、単純に通話時間として利用する以外に、残高を利用して通信データを購入したり、モバイル通貨に変換して、光熱費の支払いや買い物をしたりすることもできる。ユースケースでは、金融サービス関連ではマイクロ・レンディングやクラウドファンディングなどが紹介されており、起業家にとっての大きなハードルの一つである、資金アクセスの課題を解決しようという姿勢がうかがえる。
さらに特筆すべきユースケースが、Akon CityやMwale Medical & Technology City(MMTC)といった、仮想通貨都市構想だ。Akoin Cityは、セネガルの首都ダカールから100キロほど離れた西海岸沿いの地域ボディエン(Mbodiene)に建設される予定で、Akoinを主要通貨とするエコツーリズム都市を目指す。リード建築家は、ドバイに拠点を置くBakri & Associates Development Consultantsのフセイン・バクリ(Hussein Bakri)。中東の新興都市を彷彿とさせるような、いかにも未来的で流線型の建物が特徴的なレンダリング画像が公開されている。Akon Cityはリゾート施設やレストランなどのホスピタリティ施設が集中するAfrican Culture Village、オフィス・住宅街、映画・音楽スタジオやメディアタワーがあるSenewood、テックパークを備えたTechnology Districtなど、7つの区画が計画されている。
LAに拠点を持つKE Internationalが入札したAkon Cityプロジェクトは、2023年末までに2つのフェーズのうちの最初のフェーズの完成を目指す。第1フェーズでは、道路、病院、ショッピングモール、ホテル、警察署、廃棄物処理場、太陽光発電所などが建設される予定だそうだ。2024〜2029年までの第2フェーズでは、Akoinでなりたつ仮想通貨都市を完成させる計画だ。総予算は60億ドル。2020年度のセネガルの国家予算(3.6兆CFAフラン、約67億ドル)に相当する金額である。しかし、多数の建築物を有するレンダリングや事業スコープを見る限り、この予算は決して十分とはいえない。最終的に倍に膨れ上がるだろうという関係者の証言もある(米『ビジネス・インサイダー』)。参考までに、ドバイのブルジュ・ハリファの建設費用は15億ドル。東京の国立競技場の建設費用も約15億ドル。2017年に新設されたセネガル・ダカール空港の建設費用は5.8億ドルであった。
Akon Cityに先立って、仮想通貨都市構想が現実化しているのが、ケニアのテクノロジー都市Mwale Medical & Technology City(MMTC)だ。MMTCは、Akon City同様にKE Internationalが手がけるプロジェクトで、年内に完成予定。米国在住のケニア人実業家ジュリアス・ムワレ(Julius Mwale)が立ち上げた。ムワレはAkon Cityの投資家の一人でもある。MMTCでは今年11月に、Akoinがテスト導入された。来年には、Akoinが唯一の決済通貨となる予定である。
Akoinや仮想通貨都市をめぐる構想は、アフロ・フューチャリズム(アフリカ発のオルタナティブな未来、もしくはアフリカ人主導、アフリカ人のため未来構想)として期待が高まる一方、一部の起業家や裕福でテックサヴィーなビジネスマンのための構想との批判もある。プロジェクトを主導するAkon自身、Akon Cityは米国黒人のための新しい故郷だという発言もしている。Akonは、幼少期セネガルで育った経験があるものの、母体であるAkon Legacy VenturesのCEOを務めるビジネスパートナーのジョン・カラス(Jon Karas)など、プロジェクトに携わる多くの関係者が外国人だ。セネガルの大統領や観光大臣のお墨付きはあるものの、地元の開発ニーズやコミュニティとの連携は限られているようだ。スマート・シティ構想自体は、新しい概念ではない。仮想通貨やブロックチェーンのテクノロジーを活用して、本当にインクルーシブな場所やサービスを生み出せるか、そして本当に必要な予算を確保できるかという点は、引き続きの課題となりそうだ。
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