ブロックチェーン技術は世界の貧困層を救うか?

著:Nir Kshetri(ノースカロライナ大学 グリーンズボロー校 Professor of Management)

 ウォール・ストリートの大手企業たちは、ブロックチェーンと呼ばれる複雑な技術を活用し、ただでさえ光のようなスピードで行われる国際的な資金調達をさらに高速化している。だが、この新しい技術の恩恵を受けるのは、財界の一部の大物だけではない。

 ひとことで言うと、ブロックチェーンとは、取引を記録するための安価で透明性の高い方法だ。面識のない者同士、つまりお互いの信頼がない状態であっても、詐欺や盗難の恐れのない安全な送受金ができる。大手の支援団体、非営利団体、ベンチャー企業などが、発展途上国でのブロックチェーン・システムの拡充に努めている。これにより、世界中の貧困層がこれまでよりも簡単に、銀行の融資や貯蓄の保護を受けられるようになる。

 筆者は業務としてビジネスとテクノロジーを研究している。特に貧困層向けのクラウドコンピューティングビッグデータ、及びIoT(Internet of Things:モノのインターネット)など、ブロックチェーンを始めとする近代技術が貧困層にどのような影響を及ぼすかを専門としている。私の見解では、ブロックチェーンのシステムはすでに4つの主な方法を通じて、貧しい人々がグローバル・エコノミーに参加する機会を与えている。

◆ブロックチェーンの仕組みは?
 ブロックチェーンという単語は、トランザクション(取引)を記録するコンピュータ・データベース群を、ちょっと気取った言い方で表したものだ。これらのデータベース群は、別々の場所にある複数のコンピュータ上に構築される。ビットコインと呼ばれる仮想通貨がブロックチェーン技術の代表例として知られているが、このコンセプトは他にもさまざまな用途に利用できる

 ブロックチェーンを理解するための簡単な例としては、誰でも取引記録を投稿できる公開掲示板をイメージすると良い。この掲示板への投稿は特定の方法でデジタル署名されなければならず、一度投稿されると、その記録を変更や削除することはできない。投稿されたデータは、インターネットを中心とした世界中のさまざまなコンピュータに保存される。

 これらの機能(すなわち、誰でも書き込みと検証ができること、コンピュータによって暗号化と認証が行われること、そして複数のストレージに保管されること)により、安全な送金の仕組みが成り立つ。特定の条件が満たされた場合にのみ発生する「スマート契約」を設定することさえ可能だ。例としては、生命保険の契約が挙げられる。特定の医師がデジタル署名した死亡証明書をブロックチェーンに提出した場合にのみ、受取人に送金が行われるといった具合だ。

 既存の各種送金サービスは、(たとえ先進国であっても)各国が預金保護のための厳しい規制を用意しており、預金者保護のための明確な法律がある前提の上に成り立っている。開発途上国ではこういったルールがまったく存在しないことが多いため、この種のルールに依存するサービスもまた実現されておらず、サービスがあったとしてもほとんどの人が利用できないほど高額であることが多い。たとえば、アフリカのいくつかの地域で当座預金口座を開設するには、銀行に最低限度の金額を預け入れる必要がある

しかし、ブロックチェーン・システムはその特性上、認証とトランザクションの安全性が常に保証されている。よって、人々が任意の金額を保管することができる、安全かつ手頃な手段となり得る。こうしたビジョンはまだ未来の話だが、ブロックチェーンを利用したシステムは、他にもさまざまな方法で開発途上国の人々を実際に支援している。

◆国際送金
 2016年、海外で働く移民が母国の家族に送金した額は、合計約4420億米ドルに上ると見られる。こうしたグローバルな送金は、途上国の家族や社会を経済的に豊かにする上で重要である。しかし、送金にはしばしば非常に高額な手数料が必要になる。

 一例としてMoneyGramの例を見てみよう。米国の労働者がガーナに50米ドルを送金する場合、場合によっては10米ドルの手数料が発生する。つまり、母国側では40米ドルしか受け取ることができない。2015年の送金手数料の平均額は、銀行からの送金で10.96%、送金事業者からの送金で6.36%であった。こうした企業は、信頼性の高い便利なサービスを提供するためとして、価格の正当性を主張している。

 対照的に、ブロックチェーンに対応する香港のBitsparkの送金手数料は非常に安価だ。1200香港ドル未満の送金では、一律15香港ドルとなっている。米ドル換算では、150米ドル未満の送金に対して一律2米ドルだ。それ以上の額の場合は1%が請求される。ブロックチェーン・システムの安全な送金網を使用することで、既存の銀行ネットワークと従来の送金システムに頼らない送金を可能にしている。

 同様のサービスは、フィリピン、ガーナ、ジンバブエ、ウガンダ、シエラレオネ、ルワンダにも存在する。送金手数料は、いずれも従来の銀行の送金サービスに比べてごくわずかだ

◆保険
 開発途上国のほとんどの人々は、十分な健康保険と生命保険に加入できていない。所得に対してこれらの保険が高価なためだ。保険商品の運営費用が高額であることが原因となっており、保険料1米ドルあたりの運営費は、ブラジルでは0.28米ドル、コスタリカで0.54米ドル、メキシコで0.47米ドル、フィリピンで1.80米ドルとなっている。1日の生活費が1ドルに満たない人々の多くは保険に加入する余裕がなく、そのような人々に向けた商品を販売している会社もない。

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開発途上国ではスマートフォンがますます普及してきている。Russell Watkins /イギリス国際開発局CC BY-SA

 たとえばインドでは、人口の15%しか健康保険に加入していない。また、加入できたとしても、先進国よりも割高な保険料を支払う必要がある。結果として、南アジアの人々が収入の中から保険の支払いに充てている金額の割合は、高所得な先進国の人々に比べてかなり大きい。

 ブロックチェーンでは個々の取引がオンラインで検証されるため、保険詐欺を防止(そして暴露)し、保険会社の運営コストを大幅に削減することができる。

 ブロックチェーンを利用した少額保険サービスとして、Consueloある。メキシコのモバイル決済会社であるSaldo.mxが運営している。少額で健康保険や生命保険に加入でき、請求はオンラインで確認されて迅速に支払われるという触れ込みだ。

◆中小企業の支援
 ブロックチェーン・システムは、中小企業にとっても有益だ。これらの企業は、キャッシュフローを心配し、融資の利子の高さに悩んでいることが多い。例えば、中国の薬品小売業者は、病院への納品から支払いまで最大で90日程度待たされることがある。しかし、事業を続けるためには、そうしている間にも現金が必要だ。対策として、彼らは即金払いの仲介業者を利用する。即金で支払いを受ける見返りとして、ある程度の金額が差し引かれてしまう。一例としてこうした仲介業者は、100米ドル相当の請求書を90米ドルで納入業者から買取り、支払い期日が来た時点で、病院から満額100米ドルの支払いを受けている。

 銀行は、売り上げを偽装している可能性のある請求書を頻繁に発行する企業には融資を行わない。また、業者側と顧客側で記録に食い違いのあるような企業も同様だ。ブロックチェーン・システムでは、取引のレコードが台帳に追加される前に検証が行われ、その後の改変も不可能であるため、こうした不正の懸念は軽減されるだろう。

 先に挙げたような中国の製薬会社らは、Yijanというブロックチェーンの利用を始めている。同システムは、IBMと中国の供給管理会社Hejiaの共同事業だ。また、金融サービスのDianrongと、Foxconnの中国の事業体であるFnConnは、Chained Financeというブロックチェーンを運営する。同様の問題を抱えるエレクトロニクス、自動車、衣料品の各企業を対象に、試験的にサービスを展開している。

◆人道的支援
 ブロックチェーン技術は人道的支援にも役立つ。貧困を減らし、教育と健康を向上させるために援助の資金が寄せられているが、詐欺や腐敗差別不当な管理などが原因で、しかるべき現場に資金が届かないことがある。

 2017年の初め、国連世界食糧計画によって、「ビルディング・ブロックス」と呼ばれるプロジェクトの第1段階が開始された。パキスタンのシンド州の貧困家庭に、食糧と現金を届けることを目的としている。このプロジェクトでは、インターネットに接続されたスマートフォンを使い、国連の機関から食品業者への支払いが認証され記録される。また、受取人が援助を受けたことを確認してから業者に支払いが行われる。国連の機関は支払い状況の追跡を行い、資源が正しく届いたことを確認することができた。

 同機関は、ブロックチェーン・システムの採用により、間接費を現行の3.5%から1%未満に削減したいとしている。また、ATMが存在しなかったり、銀行が機能を停止していたりする遠隔地や災害発生地域への支援の迅速化が期待される。災害時には現金が不足しがちだが、ブロックチェーンの通貨が代わりを果たすことができる。支援機関、住民、小売店などが、オンラインで支払いを済ませられるようになる。

 ブロックチェーンは、個人として海外支援に参加したい場合にも有益だ。南アフリカに拠点を置くブロックチェーンのプラットフォームとしてUsizoがあり、ここでは誰でも、コミュニティスクールの電気代を寄付することができる。寄付を行った人は、学校で使われた電力量をチェックし、寄付金でどれだけの電気が賄われたのかを確認することが可能だ。ビットコインを使って直接寄付を贈ることができる。

◆将来的な可能性
 ブロックチェーンを活用したプロジェクトは、将来的には他にもさまざまな方法で人々や政府の役に立つようになるだろう。現在、世界人口の20%にあたる15億人の人々が、身分証明書を持たずに暮らしている。銀行でできることが制限されているばかりか、投票、健康保険、通学、旅行など、基本的人権の一部であるはずの行動が難しい場合すらあるだろう。

 いくつかの企業は、ブロックチェーンを利用して、本人確認のためのプログラムを始めている。インターネットに接続されたスマートフォンさえあれば、指示された表情を浮かべたり、声を発したり、画面上のテキストを音読するなどして、本人確認のための写真と映像を記録することができる。データはブロックチェーンに記録され、身分証明が必要になった際に参照される。

 電子メール、電話、パスポート、出生証明書などがない環境では、多くの貧しい人々にとって、ブロックチェーンこそが唯一の本人確認手段となり得るだろう。人々の暮らしを大きく向上させ、可能性を拡げることができるかもしれない。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by 青葉やまと
Eye-catch photo via Anton_Ivanov/shutterstock.com
The Conversation

Text by THE CONVERSATION

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