台湾の歴史的ビジネス街・迪化街、挑む「保全」と「生活」の絶妙なバランス

迪化街の最北端にある「迪化街十連棟」。観光スポットであるとともにオフィスや小売店が2階に並ぶ(筆者撮影)

◆市が強いる原点回帰がもたらす良し悪し
 2000年に台北市がこの地域を「大稻埕歴史的特色専用地域」に指定して以来、家主たちは多くの犠牲の上に街の景観を支えてきた。たとえば、建物をリノベーションする場合の「原型回帰」は特徴的だ。

 「リフォームを行う際、建物の構造もできるだけ『最初の原型』通りに戻さなくてはならない。また建物が作られた当初の手法を使うことも求められる。歴史的調査や台北文化財審査委員会による認証が必要になるため、リフォームには長い年月がかかる」と話すのは、迪化街のリノベーション物件を多数手掛けてきた建築家の呂大吉(ルー・タイチ)さんだ。

 現在4階建ての建物であっても、歴史を辿り、その建物が最初に建てられた際に3階建てだった場合、1階分の減築が求められる。その分、政府が容積移転を認め減築分の容積を別の場所で土地や住居スペース(マンション)といった形で提供される案が採用された。この「TDR」と呼ばれる開発権の譲渡制度の導入で、この地域の保全と修復は加速したと言われている。

 とはいえ、実際にフルリノベーションを施し、住み続けることを考えた場合、迪化街の住民は現在「6年」という月日が求められるという。まずは内装を壊し、その後いくつもの構造的な補修を行うと同時に、市の専門家とともにその構造上の分析について、古い文献をひっくり返す作業が必要だというのだ。承認にも時間がかかる。10年前に聞いた時は改築に3年と聞いて「長いな」と感じたが、今ではさらに倍以上の月日がかかるという。

 実家の隣近所は、3年半ほど別の場所に住み、リノベーションを終えて戻ったが、対面の家族はTDRを使ってほかに移り住んだという。壁を共有する造りになっていることもあり、隣の家がリノベーションを始めると、騒音はもとより、場合によっては壁にヒビが入ることもある。

 実際、隣の工事の影響で実家の2階のリビングは修繕を強いられた。その修繕費用は自前。あくまでも「お互い様」だという考えだと義母は話す。そのため、隣近所が一緒にリノベーションを始める場合もあるという。

Text by 寺町 幸枝