台湾の歴史的ビジネス街・迪化街、挑む「保全」と「生活」の絶妙なバランス

迪化街の最北端にある「迪化街十連棟」。観光スポットであるとともにオフィスや小売店が2階に並ぶ(筆者撮影)

◆世界的に見ても珍しい保全率の高い台北の迪化街
 世界の歴史的建造物に関する保全や歴史的まちづくりを専門に研究を続ける日建設計総合研究所の諸隈紅花さんは、大稲埕地区の街の保全について「以前から台北の歴史的建造物の保全と活用が進んでいるのは知っていたが、地価が高い都心部で減築や原点回帰などの制約を受けながらも、ここまで実現できているのは珍しいと感じる」と話す。

 「これほど小さい規模の建物で数が多いのは珍しいうえ、行政手続き上もかなり煩雑なのではないかと思う。もちろんそれぞれの所有者は大変だと思うが、それでも必要だとこの制度を導入した台北市の歴史的建造物保存への思いの強さがあったのではないかと推察する」

 さらに「この街の魅力は、少なくとも今は普通にこの街で生活している様子が見られる一方で、100年前からの卸売業の営みが建物と一緒になって続いている、ということでもあると思う」と続ける。

 一方「世界的にみられる傾向だが、地価や家賃の高騰で、元々の住民が住みにくくなり、建物の保全は進むものの、家賃負担能力の高いチェーン店による街の均質化の問題も起きてくるのでは」と懸念を示す。

 今後台北における大稲埕地区の歴史的ユニークさが保たれるには、そこに住む人たちの財力と心意気、そして市政府によるアメとムチによる絶妙なハンドリングが必要になるかもしれない。

「季風帯書店(モンスーン書店)」は、靴屋の2階奥(2階の三進)に開業した書店。
1階の靴屋を通らないと2階に上がる階段に辿り着けない(筆者撮影)

在外ジャーナリスト協会会員 寺町幸枝取材
※本記事は在外ジャーナリスト協会の協力により作成しています。

Text by 寺町 幸枝