英で「9日間公共放送なし」実験 受信料抵抗派7割が「支払いたい」に変化

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◆見出されたBBCの価値とは
 調査報告書には、9日間のサービス停止後、受信料抵抗派から受信料全額支払い同意派へと変わった人々の理由が記載されている。主要な5つの要素は、BBCが提供するコンテンツの量、サービスの幅、プログラムの質、そして文化・社会的要素(BBCへの信頼)、広告なしといったものだ。調査前、人々はBBCイコールテレビ番組というイメージを持っており、受信料を払うほどコンテンツに価値を感じていない、もしくはそれほどコンテンツを消費していないと感じていたようだ。しかし、実際にBBCのない暮らしを体験したあとは、彼らは思ったよりBBCの番組を視聴し、オンラインやオーディオ・プログラムといったテレビ以外のコンテンツを消費しているということに気がついたようだ。

 コンテンツ量、幅、質といった面に加えて、BBCが持つ英国の文脈における文化・社会的要素(culture, heritage, and societal benefits)に対して、人々が改めて価値を見出したというのは興味深い点の一つである。全国放送局としてのバランスの取れた報道は、とくにパンデミック中は人々が求めた情報であったようだ。また、パンデミックで休校となるなか、BBCの教育番組に価値を見出した家庭も少なくなかったようだ。

 今年初め、英国政府はBBCの受信料を2年間凍結することを下院で発表。家計への圧迫を最小限にするという意図のようだ。現在のBBCの受信料は年間159ポンド(約2万5500円)。2年間の凍結後の4年間は、物価上昇に伴い受信料を引き上げる方針だ。ちなみにNHKの受信料は衛星契約・口座振替の場合2万4185円、地上契約口座振替の場合1万3650円。NHKは2020年10月に受信料を値下げした。BBCの財源および受信料は、王室との契約・認可(ロイヤル・チャーター)によって決められており、現在の認可は2027年末まで継続。2019年時点の数字ではBBCの総収入の約4分の3が受信料によって賄われている。

 BBCは公共放送として、社会的・文化的・教育的価値があり、公共性・公益性の高いコンテンツを提供する使命をもつ。今回の調査でBBCの価値が再評価されたとはいえ、メディア業界の競争がさらに激化するなか、BBCも新たなビジネスモデルの模索というプレッシャーからは逃れられないだろう。

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Text by MAKI NAKATA