迫る食糧危機、ウクライナ穀物輸出めぐり攻防 米軍トップ、武力による黒海封鎖解除は「ハイリスク」

小麦畑で働くマリの女性(2013年)|Jerome Delay / AP Photo

◆限られる代替路の輸送キャパシティ
 封鎖回避の代替輸送ルートは存在するものの、輸送量に限界がある。ルーマニア国境では通関待ちのトラックの列が20キロに達した。黒海に通じるドニエプル川では、1日あたり7隻しか検査能力がないところ、100隻が通行許可を待っている。イタリア政府関係者はガーディアン紙に対し、「2週間以内に解決できなければ、重大な事態に直面するだろう」と語った。食糧不足のほか、西側への移民流入やテロなどを誘発する恐れがある。

 鉄路でベラルーシへ運ぶ選択肢もあるが、同国とロシアとのパイプを考えれば避けたい手段だ。ニューヨーク・タイムズ紙(6月2日)は「これを利用することは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と深い同盟関係にある残忍な指導者との取引を意味するだろう」とし、食糧危機回避のためとはいえ「道義的・政治的に痛みを伴う判断」になると分析している。

◆リスク高い軍事作戦 本命は政治交渉
 しかし、少なくとも海上輸送の再開に関し、軍事力でロシアの封鎖を破ることは難しい。米軍統合参謀本部のマーク・ミレー本部長は、海路は地雷とロシア海軍によって封鎖されているため、「かなりの努力を必要とするハイリスクの軍事作戦」になるとの見方を報じた(CNN)。米ロ間の緊張を高めるという意味でも、強行突破には危険が伴う。

 こうしたなか本命視されているのが、第三者の仲介による政治交渉だ。ロシアのラブロフ外相は5月30日、トルコのエルドアン大統領と会談を行った。ガーディアン紙は「トルコ側の発表によると、プーチンは条件付きでの協力に意欲をみせている」と報じている。ロシア側は見返りとして、ロシア産肥料の西側への輸出促進を求めているが、アメリカはある程度これに応じる姿勢だ。肥料は輸出規制の対象ではないが、西側企業が使用に慎重になってきている。アメリカのリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は、輸送業者らに取り扱いを認める念書を発行する用意があると述べた。

 ほか、イタリアのドラギ首相もアメリカ、ウクライナ、ロシアの指導者と順次会談するなど、交渉の仲介役を積極的に担っている。世界的な食糧危機の回避に向け、交渉の行方が注目される。

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Text by 青葉やまと