「新型コロナ起源、再調査すべき」著名科学者ら 「研究所流出」説も排除せず

AP Photo / Ng Han Guan

◆陰謀論とは別 科学に基づく結論を
 実は実験室からの漏洩説は、別の科学者たちによって否定された過去がある。2020年の2月に、当時出回っていた中国陰謀論を強く非難する書簡が、複数の専門家により医学誌『ランセット』に掲載されている。陰謀論は恐怖、噂、偏見を生み出すだけで、ウイルスとの戦いにおけるグローバルな協力関係を危うくするものだと主張していた。

 武漢ウイルス研究所の新興感染症主任科学者の石正麗氏は、今回の書簡は非常に残念だとし、実験室からの漏洩説は、長年同研究所がコウモリのコロナウイルスを研究してきたことに基づいていると主張。この説が新しい動物ウイルスの研究に専念する科学者の評判と熱意を傷つけ、次のパンデミック防ぐための人間の能力を弱めることにつながると述べている。(MITテクノロジー・レビュー、以下MITTR)

 一方、今回の書簡の目的は一つの仮説を支持することではなく、より科学的な厳密さを求めることだと、筆頭著者の一人であるスタンフォード大学のデビッド・レルマン氏は述べている。科学雑誌を選んで発表したのは、この点を強調し議論を科学的データの世界に留めておくためだと説明しており、陰謀論を示唆する意図がないことを明確にしている。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙

◆バイオラボの安全性は? 見直しの機会にも
 MITTRによれば、今回の書簡の署名者のうちの何名かは、過去に遺伝子組み換えでウイルスの感染力や毒性を強める研究の精査を求めていた。武漢の研究所でも病原体を操作する実験が行われていたということで、新型コロナウイルスが武漢で最初に出現した事実から、研究所からの事故による流出と疑う見方もあるという。

 ハーバード大学のマーク・リプシッチ氏によれば、高セキュリティのバイオラボから偶発的にパンデミックを作り出すリスクは、年間1000分の1から1万分の1だという。同氏は調査によって新型コロナウイルスの起源が明らかになるかどうかにかかわらず、危険なウイルスを扱う実験室での研究には、監視を強化する必要があると指摘する。世界中にそういったバイオラボが存在しており、パンデミックの被害を目の当たりにしたいま、大きな懸念だと警告している。(MITTR)

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Text by 山川 真智子