「ゴールデン・ビザ」取得の富裕中国人が増加、欧州 高額納税で居住ビザ

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◆勢いづく中国人富裕層
 ターゲス・アンツァイガーは記事中で、過去数年間に、特権層の出身地がロシアから中国へとはっきりと変わったことを指摘している。下記のグラフにあるように、国の顔ぶれは2018年からすっかり入れ替わった。中国人は、2016~2020年の5年間ですでに36人が居住ビザを得た。

 西部ジュネーブ州の弁護士は、中国人でスイスに住みたい人がいるのは驚くべきことではなく、その理由は、スイスで理想的な学校に子供を通わせたい、あるいはコロナ禍で医療制度が優れているスイスにいるほうがいい、などではないかと話している(同紙)。

連邦移民局(Staatssekretariat für Migration)の統計から筆者作成

 中国人富裕層の勢いは止まらないようだ。たとえば、ポルトガルでは、居住ビザを取得した非EU圏出身者は中国人がトップで、2016 年に848人、2017年に538人、2位はブラジル人で2013~2017年の間に473人だった。中国人は2019年にも395人、2020年に296人が居住ビザを取得し、トップの座を走っている(インターナショナル・インベストメントポルトガル・レジデント)。アイルランドでも、中国人富裕層は継続的に居住ビザを取得している。ギリシャも中国人からの人気は高く、2020年だけで1万7875人(うち5927人は投資者で、残りはその家族)が居住ビザを得た(エンタープライズ・ギリシャ)。

出典:ポルトガルは本文中の2サイト、アイルランドはインベストメント・マイグレーション・インサイダー(筆者作成)

◆「ゴールデン・ビザ」でマネーロンダリングや脱税の恐れも
 これらのいわゆるゴールデン・ビザ枠はヨーロッパ内外に広がり、国籍(通称「ゴールデン・パスポート」)を取得できる国々もある。不動産のほか、政府や企業への投資という選択もあり投資額は各国で異なる。これらの手続きを請け負うエージェンシーも多数ある。

 ゴールデン・ビザのプラットフォームの草分け、ベスト・シチズンシップスの今年1月の記事によると、ヨーロッパではポルトガルやギリシャのゴールデン・ビザ枠がとても人気だが、マルタは投資額が安くて済み、英語が公用語であり、5年住めば国籍を得られ、国籍取得のテストは不要(ただし、もう1つの公用語マルタ語の知識は必要)なことから、同国が最もおすすめだそうだ。 

 とはいえ、マルタはキプロスとブルガリアと同様、同国に住まなくても国籍取得が可能だったため、昨秋、欧州議会から勧告を受けた。それに先立つ2019年、欧州委員会はEU内のゴールデン・ビザ枠に関する初の調査報告書を公表しており、
・この枠を利用することにより、マネーロンダリングや脱税の恐れがある
・居住ビザがあればEU内を自由に移動できるため、安全面での懸念がある
・各国の枠の実施状況について、公開されていない部分がある
などの点から専門家グループを立ち上げ、EU共通のガイドラインを作ろうと動き出したのだ。

 だがEUはゴールデン・ビザ枠を禁止することはできない。中国人投資者が増加するに伴い、相場よりも2、3倍高い値段で優良物件を買ったのに実際に与えられたのは劣悪な別物件だったなど、トラブルも起きているというが、受け入れ国と特権層とのウィンウィンの関係は、EU内で折り合いをつけながら今後も続いていくだろう。

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Text by 岩澤 里美