子供にアメリカ国籍を ロシア人、中国人に「フロリダ出産」「LA出産」が人気

Lopolo / Shutterstock.com

 出産のために日本からハワイへ旅する日本人女性の「ハワイ出産」は、近年、よく耳にするようになった。気候がいいハワイで産みたいからというのも理由だろうが、多くは、ハワイで生まれたために自動的に与えられるアメリカの国籍に強い魅力を感じているはずだ。その子供は、20数年後にはアメリカ国籍か日本国籍かを選択しなくてはならないとはいえ、アメリカ国籍があれば、旅行や留学などに好都合だ。これと同じ現象が、ロシア人女性の間で起きている。「フロリダ出産」ブームだ。

◆リピーターの妊婦もいる
 モスクワでは、フロリダ州マイアミで子供を産むことがステータスシンボルになっているという。米NBCニュースは、マイアミで、「フロリダ出産」ツアーを利用した産前産後のロシア人女性たちや、出産をオーガナイズする業者を取材した。

 あっせん業者の「マイアミ・ママ」では、年間100人のロシアやウクライナ(ロシア語を話す)の妊婦の出産を手伝っていて、3割がリピーターだという。同社を経営する夫妻も、2人の子供を「フロリダ出産」している。記事によると、フロリダ州では、アメリカ以外に住んでいる外国籍の母親から生まれた子供の数が、2000年から200%増加している。

 出産ツーリズム全体に関する統計は、正確な数値を知ることが難しい。国際メディカルトラベルジャーナル誌の記事では、毎年、4万人の子供たちが、旅行ビザで入国した母親たち(つまり出産ツーリズムに来た女性)から生まれているとしている。

 ロシアは多重国籍を認めているので、「フロリダ出産」で生まれた子供たちは、アメリカに住み、働ける権利を生涯得ることになる。

◆「お金があるのだから、よいでしょう!」
 ロシアの母親たちは、数週間から数ヶ月滞在する。マイアミ・ママのサイトを見ると、サポート内容によって4つのコースがあって、ミニは約77万円(6,900ドル)、スタンダードは約220万円(19,900ドル)、プレミアㇺは約310万円(27,900ドル)、VIPは約550万(49,900ドル)となっている。

 NBCニュースの取材を受けた女性の1人は第1子出産のためにマイアミに来たが、滞在先や医師を探したり、ビザを取得したりといったサービスを業者から受け、560万円近く払ったという。上を見れば切りがなく、この2倍かかる場合もあるそうだ。

 この女性はレポータ―の質問に対して、次のように話している。「出産ツーリズムを懸念している人はいますね。でも、私は自分でお金を払っているのだし、アメリカから何かを取るつもりはありません。自分の子供が将来どんな選択をするかはわかりませんが、その選択のために自分のお金を使うことができるのですから、いいでしょう」

 米国営ラジオのボイス・オブ・アメリカも最近、「フロリダ出産」をレポートした。このレポートでは、ロシアでの出産は病院通いで検査も多くてたいへんで、それに比べてアメリカでの出産は楽だからいいと話す女性もいた。ただし斜めから見ると、もしも、ロシアで「フロリダ出産」と同様のケアが受けられるとしたら、同様の高額を払ってロシアで出産するのだろうか。やはり、アメリカ国籍取得に引き付けられているのではないか。

◆中国人女性は「カリフォルニア出産」
 アメリカの出産ツーリズムは、中国人女性にも人気だ。とりわけ、中国人向けのあっせん業者が充実しているカリフォルニア州ロサンゼルスに行く人が多い。理由は、やはりアメリカ国籍取得のためだ。

 中国の富裕層のトレンドを伝える『Jing Daily』が、出産ツーリズムコンサルタントの中国人女性(自身も出産のために渡米した経験あり)にインタビューしたところ、経済的にも時間的にも(通常、3か月滞在して出産する)余裕がある女性たちは、子供がアメリカ国籍を取得すれば、将来問題なくアメリカやほかの国で勉強したり働いたりできる、その自由を与えたいから渡米して出産するという。

 費用は、約320万円(29,048ドル)が普通で、約480万円(43,573ドル)だと非常に快適になる。1人目の子供を連れて2人目の出産に来る女性も多く、1人目の子供を柔軟に受け入れてくれる私立幼稚園の需要が増しているそうだ。

◆「出産ツーリズム」で起きている問題――違法入国や脱税
 Jing Dailyによれば、出産のために渡米する中国人妊婦は2007年に600人だったのが、2016年には8万人以上に膨れ上がったという。先述の出産ツーリズムで生まれた子供の総数4万人をはるかに超えているが、中国人妊婦たちのなかには出産することを隠して入国する人が多いことも関係しているのだろう。

 出産目的という理由を隠して入国すると違法になる。先のIMTJの記事によれば、ロサンゼルス国際空港などを始め、空港での中国人妊婦たちへの入国審査が厳しくなっている。中国人妊婦たちの「カリフォルニア出産」で起きている別の問題は、業者が違法改築してホテルを作り、無許可営業をして脱税につながっていることだ(産経ニュース)。

 カナダも、親の国籍に関係なくカナダで生まれた子供は自動的にカナダ国籍が取得できるため、とくに中国人女性の出産ツーリズムが増えている。最近では、ブリティッシュ・コロンビア州のリッチモンド総合病院で出産した外国籍女性が未払いで帰国したケースが発生した(バンクーバー新報)。カナダの保守党(野党)は、同州の出産ツーリズムを禁じようと、親の1人がカナダ市民またはカナダ永住者でない限り、子供にカナダ国籍を与えないよう法制化しようと動き出している(サウスチャイナ・モーニング・ポスト)。

Text by 岩澤 里美