何度訪れても、次々と新しい魅力を発見してしまうのが京都。京都市内には、それぞれ異なる空気をまとった地域が点在し、そこに暮らす人々の営みが折り重なる。長い歴史を静かに蓄えながらも、同時に新しいカルチャーや未来も予感させてくれるという時間軸も、この街ならではだ。そして二十四節気とともに移ろう季節があるのだから無限とも思われるようなバリエーションも組み合わせもあって、一筋縄ではいかない。
桜の季節が過ぎ、木々が新緑に映える頃、京都を歩いた。その目的の一つは『たまごを使った丼物』。上品に仕上げた出汁をたっぷりと含んだたまごが、そのほかの具材を包んで丼の中の白米の上に乗る。その滋味深い一杯を求めて、いくつかの店を巡りながら3つの丼物を食べ歩き、そのそばにある神社にも立ち寄った。そして最後には、京都のローカル丼として親しまれてきた『衣笠丼』のレシピを紹介する。

北野天満宮そばで衣笠丼


京都中心から北西へ。金閣寺や竜安寺にも近い『北野天満宮』は、あの学問の神様、菅原道真を祀る天満宮・天満神社の総本社。学業成就や武芸上達が祈られているそうで、受験を前にした学生の合格祈願に人気の神社だ。
この日、境内にある『文子天満宮』では、祭りで担がれる神輿に魂を宿す“霊入れ”の神事が行われていた。数日後に控える『文子祭』の準備だ。多治比文子はを最初に祀った人物であり、道真公の乳母でもあったと伝えられている。はじめは自宅の庭に小さな祠を建てたことが始まりで、その信仰が後に北野に天満宮を建立することになったのだそうだ。昼時に天満宮のすぐ東にある室町時代からの花街『上七軒』に店を構えるうどん屋に入った。

衣笠山は、ちょうど金閣寺と龍安寺の間にある標高201メートル低山。丸いシェイプがかわいらしく、登ればそのふもとに金閣寺が見える。まるで衣笠山のようだということで名づけられた衣笠丼は、甘辛く炊いた油揚げと青ネギをたまごで綴じて、白米の上に乗せた京都のご当地丼のひとつ。山椒を振ればさらにうま味が感じられるようになって、箸が進む。主に近畿圏で食べられている郷土食だ。
シンプルな食材でありながら奥行きのある優しいおいしさは出汁だ。京都といえば北海道から北前船で運ばれた昆布からとったクリアな出汁に、鰹節のパンチを加えたものが一般的。うっすらとした色は淡口しょうゆ。見た目は薄いが塩味がしっかりしている。そしてみりんの甘味がしっかり感じられる味付けだ。
平安神宮の参道入り口で木の葉丼
次は京都中心部からすこし東方向へ。平安神宮から南に延びる神宮道にあるうどん屋で「木の葉丼」を食べる。
平安神宮は明治28年(1895年)の平安遷都1100年の記念事業として創建された。平安京の正庁である「朝動員(大内裏)」を8分の5の規模で再建したもの。現在平安神宮がある場所は当時新しく造成された土地だが、平安京時代には二条城の北のあたりにあったという。朱色の大鳥居は建築規制で高い建物がないこの辺りで青い空を背景に圧倒的な迫力だ。



さて「木の葉丼」である。かまぼこや椎茸を刻んで丼汁でさっと炊いてから青ネギを加えてたまごで綴じ、丼の白米にのせる。仕上げに海苔をかける。衣笠丼とは具が異なるが、基本的な作り方や味付けは同じと言っていいだろう。いずれも肉を使わずあっさりと仕上げるので比較的ヘルシーだし、材料も安価で家庭料理としても人気だという。

京都ではいったほかの飲食店で働く若い数人に衣笠丼か木の葉丼を知っているか、また食べたことがあるか聞いてみた。ところがほとんどの人が知らない、知っていても食べたことはないとのことだった。「やっぱり肉がないと。かつ丼か親子丼を食べることが多いです。」とのことで、活動的な若い世代には軽すぎるのかもしれない。
熊野若王子神社から繁華街に戻りにしん丼
平安神宮から東へ少し歩けば静かな住宅街になり、山がちな地形の入り口に熊野若王子神社がある。京洛東那智、つまり平安京の東の那智、紀州熊野の那智社に由来するのだそう。後白河法皇により1160年に創建された。哲学の道の南の起点でもあり、北に向かえば銀閣寺に通じる。南に行けば南禅寺と、人気のスポットにも挟まれている位置で、落ち着いた雰囲気のあるかわいらしい拝殿だった。



三条河原町に戻ると、一気にタイムスリップをしたような気分になる。様々な国からの観光客、土産物屋やレストラン、交通量も多い。三条通りから寺町通を北に入ったところに、創業明治11年のそばや「常盤」がある。そばにうどん、カレーに洋食系の定食も。メニューににしん丼を見つけた。

昆布同様に、身欠きにしんも北前船で運ばれてきた。明治時代以降、京都の代表料理となったのがにしんそばだ。その身欠きにしんを戻して甘露煮にしたものをそばにのせたもの。それをたまごで綴じて白米にのせたものがにしん丼。ふんわりとしたたまごを寄せてみると、いい色に煮あがったにしんが現れた。身を崩してたまごと合わせて白米と一緒に口に運ぶと、甘辛でふわふわ、そこに魚のうまみも加わって、なんとも幸せになるうまさだった。

ある調査によれば、京都のたまごの消費量は全国の平均程度だが、たまごの消費金額は日本でトップなのだとか。ということは美味しいたまごをこだわりを持って選んで食べているということになるのだろう。

衣笠丼の作り方
衣笠丼は油揚げ、木の葉丼はかまぼこともいわれているようだが、今回は実際に現地で食べたものに合わせてかまぼこも。たまごはしっかりと出汁を含ませてふわトロにするために、出汁を含ませたもので仕上げることにする。

材料:一人分
・たまご 1個 しっかりと溶いておく
・油揚げ 1/2枚
・かまぼこ 30g 拍子切り
・ねぎ 10㎝ 斜め切り
・ごはん 丼ぶり一杯
・だし 大さじ4
・しょうゆ 小さじ2
・みりん 小さじ2
・酒 小さじ2
・砂糖 小さじ1
・塩 小さじ1/4
・粉山椒 適量
作り方:
1. 油揚げをざるに入れて熱湯を回しかけて油抜きをして、キッチンペーパーで押すようにしてはさんで水分を取る。
2. 鍋または小さめのフライパンに、だし大さじ2、しょうゆ、みりん、酒、砂糖、塩を入れて沸騰したら弱火にして、油揚げ、かまぼこ、ねぎを入れて1分ほど煮る。

3. たまごに出汁大さじ2を入れてよくかかき混ぜ、2に回し入れて30秒したら火を止めて蓋をして1分置く。

4. 丼ぶりにご飯を盛り、3を乗せる。粉山椒を振る。

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All Photos by Atsushi Ishiguro
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石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/
