滴滴出行が米上場廃止へ、中国勢IPOは一層冷え込みか
中国配車サービス大手の滴滴出行(ディディ)がニューヨーク証券取引所(NYSE)からの上場廃止手続きに着手する。今年に入って起きた幾つかの中国企業の米国上場廃止に続くこの動きにより、中国勢の米国における新規株式公開(IPO)は一層冷え込むかもしれない。銀行関係者や投資アドバイザーはこうした見方をしている。
滴滴出行がNYSEに上場を果たした6月30日以降、中国企業の米上場は急減した。背景にあるのは主に、中国当局の国内ハイテク企業に対する未曽有の締め付けを巡る懸念だ。滴滴出行は中国当局から見合わせるよう要望されたのを無視する形で上場を強行した直後、中国当局が個人データの取り扱いについて同社の調査を開始し、今も調査は続いている。また中国サイバースペース管理局(CAC)は国家安全保障上などの理由で、滴滴出行のアプリ配信を停止するようアプリストア運営会社に命じ、同社には中国本土での新規利用登録停止を指示した。
こうした規制措置に加え、米政府が米国の監査ルールに従わない中国企業の上場を廃止する意向を示唆しているため、中国企業の米上場は既に大きく鈍化している。ディールロジックのデータからは、今年後半の中国企業の米上場は17年前半以降で最も低調となり、年初来の規模は約130億ドルと昨年全体の136億ドルを下回っていることが分かる。
米証券取引委員会(SEC)が2日採択した外国企業説明責任法(HFCAA)施行規則最終案によると、米上場の中国企業は今後、政府に所有・管理されているかどうかを開示し、適正な監査を受けていると証明しなければならない。
ある香港のバンカーはロイターに対して、滴滴出行の米上場廃止方針がこれから上場しようとしている中国企業に及ぼす影響を香港の金融セクターが把握するにつれて「中国企業による米国でのIPOはどんどん限られてくる」と話した。
取引プラットフォームのスマートカーマに情報を提供している独立系調査アナリストのミッチェル・キム氏は、既に警戒心を抱いている投資家は中国勢が米国で今後IPOを実施することについてより不安を抱くと予想。「米国の投資家は中国企業に投資するのを怖がるかもしれない。つまり、中国企業は米資本市場から閉め出されるのではないか。非常に多くのハイテク投資家が米国を拠点にしている以上、特に中国のハイテク企業が直面する試練はより大きくなってもおかしくない」と説明する。
ただゴールデン・ゲート・ベンチャーズのパートナー、ジャスティン・ホール氏は、滴滴出行の米上場廃止方針が中国ハイテク企業に対する世界中の投資家の買い意欲にマイナスの影響を与えるとしても、だからと言って中国の取引所における上場で幅広い成功を収めるのは不可能だとは言えない、とくぎを刺した。
ホール氏は「同様に、中国のハイテク企業創設者は将来にわたってより安全な取引所を選ぶのではないか。結局米上場廃止が不可避になった場合、そのために必要な全ての時間と資源が水の泡になってしまうからだ」と指摘した。
実際、近年の米中対立を受け、米国で上場する中国企業がニューヨークで上場廃止となってしまう事態に備えて香港にセカンダリー上場を果たす例が相次いでいる。
別の香港の投資銀行関係者はもう少し楽観的で、大量のデータを取り扱っていない中国企業にはなおニューヨーク上場を選ぶ余地があるとみている。
複数の関係者は先月ロイターに、中国当局が滴滴出行の首脳にデータの安全面を理由にNYSEからの上場廃止計画を策定するよう迫ったと明らかにした。この投資銀行関係者は「滴滴出行の問題はデータが絡んでいる。データ問題が解決するなら、支障はなくなる」と強調した。
[香港/シンガポール 12月3日 ロイター] – (Scott Murdoch記者、Sayantani Ghosh記者)