米国の消費ブームとサプライチェーンの混乱、何が起きているのか?

Noah Berger / AP Photo

◆米国での需要ブーム
 物流停滞問題の最大の要因となっているのが、米国における消費の拡大とそれに伴う需要ブームだ。新型コロナウィルスによるパンデミックの影響で、支出が抑制され、さらに米国政府によるコロナ関連の経済救済措置としての給付金普及、株価の上昇、不動産価値の上昇などもあいまって、貯蓄が増え、米国の個人消費が拡大している。特筆すべきは、モノ消費への偏りだ。パンデミックの影響が続くなか、家の中での滞在時間が増え、電化製品、家具、スポーツ用品などに消費が集中する一方で、ホテル、外食、映画などといったサービス消費は限られている。結果、既存のサプライチェーンが追いつかず、物流停滞問題が起こっている。物流の状況が平常化するには、消費ブームが収まるだけでなく、モノ消費からサービス消費への移行という動きが起こる必要がある。

 米国の主要物流拠点である9つの港のうち、上位4つのロサンゼルス港、ロングビーチ港、ニューヨーク・ニュージャージ港、ジョージア港の物流量は全体の74%を占める。いずれの港においても、物流量は昨年比で急増している状況だ。物流問題の対応として、バイデン政権は主要な港であるロサンゼルス港とロングビーチ港の24時間稼働を決定。ロサンゼルス港の物流量は昨年比で27%増加、ロングビーチ港に関しても24%増加した。

 物流停滞のボトルネックは港だけではない。在庫ロスによる機会損失を減らすため、各社はより多くの物量を抱える傾向にある。グローバル物流のスタンダード・プラクティスとなりつつあった、「ジャスト・イン・タイム」が機能しなくなっている状態だ。米国に輸出される多くの製品を製造するアジア諸国、とくに東南アジアにおいては工場が閉鎖されているという課題もある。さらに、米国内における、不特定多数の人との交わりがあるため感染リスクが高い、荷下ろし作業員、運送作業員、小売販売員といった職における雇用不足の問題も、全体的な物流停滞に影響を及ぼしている。また、コンテナ自体の数が足りておらず、物理的にモノを移動できないという課題もある。モノ消費からサービス消費への移行、インフレの進行による消費抑制によって、物流問題が軽減される予測だが、物流の正常化は来年中旬以降との見込みだ(AP)。

 個人の大量消費が推進する米国経済の実態が改めて表面化し、SDGsやエシカル消費といった視点が陰に追いやられてしまっているのは残念な状況である。

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Text by MAKI NAKATA