NFT:ポップカルチャーと暗号マニアが膨らませた過大な投機バブル

mundissima / Shutterstock.com

著:John Hawkinsキャンベラ大学、Senior Lecturer, Canberra School of Politics, Economics and Society and NATSEM)

 コメディアンのロビン・ウィリアムズ氏はかつて、コカインを「金儲けのしすぎを伝える神のお告げ」と評した。その役割はいま、複製が容易で唯一の所有権を主張するブロックチェーンベースのデジタル資産「NFT(非代替性トークン)」に取って代わられようとしている。

 最近のNFTマニアたちは、退屈そうな表情を浮かべるアニメの猿(エイプ)をモチーフとし、1万種類ものアバター(分身)がある「ボアードエイプ」に巨額を投じている。ラッパーのエミネム(本名:マーシャル・ブルース・マザーズ3世)は昨年12月、EminApeというあだ名のついた9055番目のボアードエイプを手に入れるために約45万ドル(約5175万円)を支払った。カーキ色と金色のチェーンが彼の身に着けているものに似ているというのが、あだ名の由来だ。これを含めエミネムは、160個以上のNFTコレクションを持っているとされる。

 ボアードエイプのキャラクターをみると、「タンク・ガール」や「ゴリラズ」を描いたアーティスト、ジェイミー・ヒューレット氏の作品から派生したもののようだ。 エイプのクリエーターによると、表情、ヘッドウェア、服など170以上もの特徴を組み合わせることができる。すべてのエイプは一体限りで、なかには希少なものもある

 では、エミネムが保有しているNFTは何か。コレクションには電子版の画像があり、それを自身のツイッターのプロフィールに使用している。しかし、その画像をネットからコピーすれば誰でも使える。ただ違いがあるとすれば、それはエミネムのNFT購入履歴がブロックチェーンに記録されていることだ。彼のNFTについて言えば、マーケティング的な素材以外の目的やメリットは不明だが、メンバー限定のオンラインスペース「ボアードエイプ・ヨットクラブ」のメンバーになることはできる。

 大体おわかりいただけただろうか。知的財産(といってもその程度のものだが)はクリエーターに属する。キャラクターの商品化から得られる収入の分け前を、クリエーターが受ける権利はない。そのNFTにもっとお金を払ってもよいと考える相当の愚か者がいる場合のみ、購入者は利益を得ることができる。

 だが、そのようなケースはあまりなさそうだ。エミネムが購入し話題になったことで需要が増えたのは確かだが、2022年以降、ボアードエイプのNFT購入にかかる平均価格は約83イーサ(約28万ドル)である。エミネムほどの人なら自分に似ているエイプを入手するのに大金を支払う覚悟があったかもしれないが、ほかの人にそれができるだろうか。

 NFTはきわめて投機的な商品といえる。取引の基本は唯一の所有者であることを証明することである。ただ、それが意味を持つのは自慢する権利や将来的にNFTを販売する見込みがある場合に限られる。NFTマニアは、収集品やブロックチェーン市場のもっとも低俗で貪欲な側面と、セレブのカルチャーを組み合わせていると言ってよい。

◆セレブインフルエンサーの台頭
 とりわけエミネムが巨額の支払いをしたことで、こうしたNFTに価値があるという考え方に信憑性が与えられた。だが、ボアードエイプNFTへの関心を集めた有名人はほかにもいる。

 お祭り騒ぎに加わった面々には、バスケットボールのスター選手であるシャキール・オニール氏やステフィン・カリー氏、富豪のマーク・キューバン氏、エレクトロニック・ダンス・ミュージックDJのスティーブ・アオキ氏、ユーチューバーのローガン・ポール氏、深夜テレビ番組の司会者ジミー・ファロン氏などがいる。

 有名人が購入するとセレブのお薦めが得られたような効果があり、これはマーケティングの定石とされている。金融市場における「根拠なき熱狂」のような現象をメディアカルチャーが引き起こす力があることを、如実に示す例だといえる。

 人々の間では伝統的な投資や、投資アドバイスから遠ざかる動きがみられる。資産価格が将来のキャッシュフローから切り離されているため、技術的な専門家が行う予測に対する関心が薄れつつあるのだ。すると、SNSや自らが行うリサーチを頼りにするようになる。

 昨年半ばに18歳から40歳の投資家1400人を対象に行われた調査によると、Z世代投資家の約3割がTikTokの動画を信頼に値する投資アドバイスの情報源と考えていることが判明した。

 これにより、セレブインフルエンサーの活躍の場が広がった。

◆ポンジ・スキームまがいの代物
 多くのNFTマーケティングの取り組みは違法ではないものの、新規投資家の預け金から高額の「配当」を支払うことで数十年にもわたって詐欺行為を続けた、バーニー・マドフ氏によるポンジ・スキームのような仕組みといくつか共通点がある。

 暗号資産(仮想通貨)市場の機能も基本的には同じだ。既存投資家が利益を得るためには、新たな買い手が市場に投入されなくてはならない。NFTについても同様で、このデジタル資産には何か幻想めいたものがつきまとう。

 NFTそのものの経済性に対する付随物の価値については、いまとなっては若くはないが「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)」と呼ばれ、自己宣伝の達人と自称するダミアン・ハースト氏が行った興味深く、そして非常に収益性の高い実験に、光明が見出せるかもしれない。

 有名な「ザ・カレンシー」プロジェクトでは、1万枚のよく似ているけれどもひとつしかないドット絵から作られたNFTが販売された。1年後、NFTの購入者はデジタルトークンか実物のアート作品のどちらかを選ぶという仕掛けが設けられたのだ。NFTを選ぶと、アート作品は破壊されてしまう。

◆根源的な価値なし
 いまの時代、あらゆるものが市場になると言っても過言ではない。だが、根源的な価値がまったくないのに投機的なバブルが発生することが多くなっている。ビットコインに加えて、ドージコイン柴犬コインといった有名人のミーム(ネタ)をベースにした暗号資産にNFTが加わった。これらは本質的には価値を持たず、価格が上昇するのを期待して投機家が購入するトークンの一例である。

 このような行き過ぎを風刺するのがはじまりだったドージコインでさえ、いまでは200億ドルもの価値を有し、ポンジ・スキームのような手法で宣伝されている。

 ツイッターフェイスブックの投稿が株価を左右するようになったことを示す研究も発表されている。 イーロン・マスク氏のツイートは、暗号資産の価格に大きな影響を与えているようだ。

 私たちはいま、巨大な投機バブルのなかにいるようだ。NFTなど資産のクリエーターは安泰だろう。所有者については明らかではない。

 NFTが暴落したときの影響はNFT市場だけに留まらないとみられる。とくに多額の借り入れをしている投機家などは、ほかの資産も整理しなくてはならないだろう。これにより、すべての金融市場が不安定さを増すことが予想される。

 バブルが大きくなればなるほど、その崩壊がおよぼす影響も大きくなる。

This article was originally published on The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

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