メタバースはお金、暗号は王様 ブロックチェーン上で仮想空間を動き回れるようになる理由

Athitat Shinagowin / Shutterstock.com

著:Rabindra Ratanミシガン州立大学、Associate Professor of Media and Information)、Dar Meshiミシガン州立大学、Assistant Professor of Communication Arts and Sciences)

 メタバースとは多くの仮想空間が相互に接続されていて、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)だが仮想現実でアクセスするもの、と考える人がいるかもしれない。それはおおむね正しい考え方ではあるものの、メタバースにはブロックチェーンという、根源的なところでやや暗号めいている側面もあり、これが今日のインターネットとの大きな違いをもたらしている。

 そもそも「ウェブ1.0」とはコンピュータとサーバが接続された情報スーパーハイウェイのことで、検索や探索、埋込が可能なAOL、ヤフー、マイクロソフト、グーグルなど中央集権的なプラットフォームで利用されていた。2000年頃になると、SNSやブログのほかフェイスブック、Snapchat、ツイッター、TikTokなど、無料SNSプラットフォームの中央集権的なゲートキーパーがユーザーデータの広告によってマネタイズをする特徴を持つ「ウェブ2.0」が現れた。

「ウェブ3.0」はメタバースの基盤となるだろう。ユーザーが所有する暗号資産やデータの経済を支える、ブロックチェーン対応の分散型アプリケーションで構成されるようになる。

 ブロックチェーン、分散化、暗号資産とは何か。SNSやメディアテクノロジーの研究者として、以下でメタバースの提供を可能にするテクノロジーについて説明する。

◆ビットを所有する
 ブロックチェーンとは通常、台帳と呼ばれる分散型の公開データベースに取引を永続的に記録するテクノロジーである。ビットコインはブロックチェーンを基盤とする、もっともよく知られている暗号資産(仮想通貨)だ。ユーザーがビットコインを購入するたびにその取引がビットコインのブロックチェーンに記録され、世界中にある無数のコンピュータに広まっていく。

 この分散型記録システムで不正を働いたり、制御したりするのはきわめて難しい。ビットコインやイーサリアムのようなパブリック・ブロックチェーンは透明性が高いため、伝統的な銀行の帳簿とは異なり誰でもすべての取引をネット上で閲覧できる。

 イーサリアムはビットコインと同じブロックチェーンではあるが、ある条件を満たすと自動的に実行し、ブロックチェーンを基盤とするソフトウェアルーチンのスマートコントラクトによりプログラミングができる。ブロックチェーン上のスマートコントラクトを使用すれば、美術品や音楽といったデジタルオブジェクトの所有権を確保できる。第三者がこのオブジェクトを自身のコンピュータに保存したとしても、ブロックチェーン上で所有権を主張することはできない。通貨、有価証券、美術品など、所有することができるデジタルオブジェクトは暗号資産である。

 ブロックチェーン上にあるアート作品や音楽などのアイテムは「非代替性トークン(NFT)」と呼ばれる。非代替的であるとは、唯一無二の性質を持ち交換できないという意味で、通貨に代表される代替可能なものとは異なる(1ドル硬貨の価値はすべて同じで、ほかの1ドル硬貨と交換が可能)。

 重要なのは、ある人がスマートコントラクトを使い、デジタルアート作品をイーサリアムのブロックチェーン通貨であるイーサで100万ドル分販売する意思を表明できることだ。相手が「了解」ボタンをクリックすると、イーサが自動的にブロックチェーン上で当事者間を移動し、所有権が移転する。銀行や第三者のエスクロー(仲介者)も不要で、当事者の一方が取引に異議を唱えた場合(たとえば、100万ドルではなく99万9千ドルしか受け取っていないと主張された場合)、分散型台帳の公開記録をもとに容易に事実を指摘できる。

 ブロックチェーン上にある暗号資産的なものとメタバースにはどのような関係があるか?じつはすべてが関係している。まず、誰であれブロックチェーンがあれば仮想世界でデジタル商品を所有することができる。実世界だけでなく、仮想世界でもNFTを所有することになる。

 また、メタバースは特定の団体や企業が作るものではない。さまざまな団体が異なる仮想世界を構築し、将来的にはこれらの世界が相互に連携してメタバースを形作ることになるだろう。ディセントラランド(イーサリアムブロックチェーンを使った仮想空間)からマイクロソフトの仮想環境への移動など、人々が仮想世界を行き来するようになると、手持ちのものを持っていきたいと思うようになる。2つの仮想世界が相互に連携していれば、ブロックチェーンが両方の仮想世界でデジタル商品の所有権を認証してくれる。仮想世界で暗号ウォレットにアクセスできれば、自身の暗号資産にもアクセスできる。

◆財布を忘れずに
 では、暗号ウォレットに入れておくものは何か。メタバースではおそらく、暗号資産を持ち歩きたくなるだろう。暗号ウォレットにはアバター(分身)だけでなく、アバターに着せる服、アバターのアニメーション、仮想的な装飾品や武器など、メタバースでしか使えないデジタルアイテムも入っている。

 暗号ウォレットを使って何をするか。まずは買い物だろう。リアルなネット通販と同じように、音楽、映画、ゲーム、アプリといったおなじみのデジタル商品を購入できるようになるとみられる。メタバースでは実物アイテムも購入できるほか、購入を考えているアイテムの3Dモデルを目にしたり、手でつかんだりすることができるため、多くの情報に基づいた意思決定ができる。

 また、年季の入った革財布に身分証明証を入れるのと同じ感覚で暗号ウォレットと実世界の身分証明を連携させれば、自動車や住宅を実際に購入するときなど、法的な認証を必要とする取引が円滑に行えるようになるだろう。IDがウォレットと連動されるため、訪れるすべてのウェブサイトや仮想世界で使うログイン情報を覚えておく必要もなくなり、ログインするにはワンクリックでウォレットと接続すればよい。ID連動のウォレットは、メタバース内に設けられた年齢制限エリアへの入場を制御するのにも使える。

 さらに、暗号ウォレットを連絡先リストと連携すれば、特定の仮想世界から別の仮想世界にSNS情報を持参することもできるだろう。「フィールインザブランクの世界で開催されるプールパーティに参加しよう」などと呼びかけられる。

 いずれは、ウォレットがレピュテーション(評判)スコアと関連付けられ、公共の場での発言やSNS外の人々との交流ができるかを決める要素になることも考えられる。有害で不正な情報を拡散する荒らしのような行動をしているとレピュテーションが下がり、影響力が及ぶ範囲がシステムの力により狭められるかもしれない。これによりメタバース内では善良な行動をする誘因が生まれる可能性があるものの、プラットフォームのデベロッパーはこうしたシステムの開発を優先しなければならない。

◆巨大なビジネス
 最後に、メタバースがお金になるのなら、企業も参入したいと思うはずだ。ブロックチェーンは分散型という性質を持っているため、金融取引においてゲートキーパーの必要性が減る可能性があるものの、企業が収益を生み出す機会は依然として残っており、現在の市場を超えるかもしれない。メタ(旧フェイスブック)などは、人々が働き、 遊び、集まる巨大プラットフォームを提供するようになるだろう。

 ドルチェ&ガッバーナコカ・コーラアディダスナイキといった大手ブランドもNFT関連事業に参入している。 ある企業の実物アイテムを購入すると、メタバース内で使う関連NFTも手に入る時代が来るかもしれない。

 たとえば、実世界のナイトクラブに行くのに誰もが欲しがっている有名ブランドの服を買うと、その服の暗号版も手に入り、アリアナ・グランデの仮想コンサートにアバターが着て行くことも考えられる。また、中古の服を売るのと同じ感覚でNFT版の服も他人のアバター用に販売できるだろう。

 以上はメタバースのビジネスモデルと実世界が重なり合う可能性を示す、ほんの一例にすぎない。拡張現実のテクノロジーがさらに広まるにつれてビジネスの事例はさらに複雑さを増すことになり、メタバースと実世界の両側面が融合していくだろう。厳密な意味でのメタバースはまだ実現されていないものの、ブロックチェーンや暗号資産など技術的な基盤が着実に開発されてきており、あたり一面に仮想的な未来が広がる段階が着実に整備されつつある。メタバースが身近にある時代がまもなくやって来る。

This article was originally published on The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

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Text by The Conversation