美術館がNFTで収益化できない4つの理由

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著:Brian Mittendorfオハイオ州立大学、Fisher Designated Professor of Accounting)、Sean Stein Smithニューヨーク市立大学リーマン校、Assistant Professor of Economics and Business, Lehman College)

 デジタルアーティストのBeepleが制作したNFT(非代替トークン)が3月11日に6900万ドル(約78億円)という破格の値段で落札されると、アート界に衝撃が走った。その後も、ブロックチェーン上にあってコンピューターネットワークで管理されているデジタル資産が数百万ドルで販売される事例が続いた。

 この時期、美術館は新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる来場者や寄付金の減少が加速したことで深刻な財政難に直面していた。多くの施設では、予算の不足を補うために貴重な美術品を売却するといった抜本的な対策を検討してきた。

 多くの美術館が切に欲している収益を、NFTは生み出すことができるだろうか?大英博物館アカデミー映画博物館など、独自のトークンを発行しているところもある。 マイアミ現代美術館は初期NFTで寄付を受け付けた。ミュージアム全体がNFTになっているデジタルライフ博物館(Museum of Digital Life)もある。

 だが、アート界でこれほどの混乱があってから半年以上が経過したが、全般的にみると美術館とNFTの関わりはそれほど多くない非営利組織の財政問題に加え、NFT、暗号資産(仮想通貨)そのほか関連するブロックチェーン・アプリケーションの動向を研究している者として、我々は美術館がNFTブームを収益に結びつけられていない要因が4つあるとみている。

◆NFTは複雑
 美術館を運営する人達は、アート、教育、キュレーションにまたがる専門知識を持っている。ところがNFTはアートとはまったく別の領域にあり、絵画や彫刻といった典型的なアート作品というよりは暗号資産と共通するところが多い。

 NFTがビットコインやイーサリアムといった交換可能な暗号資産と異なるのは、それぞれのNFTが固有の資産であることだ。NFTを取扱、保管、評価する方法を理解するのは難しいほか、それをオークションにかけるために素早くミント(発行)する能力などは、美術館スタッフが通常持ち合わせているものではない。さらにNFTの売買には暗号資産を用いるのが通例だが、美術館を含め日常の取引を同資産で行っている組織はそれほど多くない

 リスクを最小限に抑えようとする金融のノウハウや文化がないことに加え、法規制保険も複雑である。美術館がNFT市場に参入していない理由はそこにあるといえる。

◆金銭的なメリットがない可能性
 アート作品の所有と、その作品に関連するNFT所有との関係は分かりにくい。一見したところ判別しづらいが、NFTはアートそのものとは別の資産である。ある作品から生まれたNFTがミントされ、売却されたとしても、作品の所有者は所有権を保持している

 つまりアートの所有者は、関連するNFTから大きな稼ぎを得られる特殊な力を持っているわけではない。絵の具やキャンバス、額縁の価値と絵画の価値がほとんど関係ないのと同じように、NFTの金銭的な価値は主観的なものである。その価値は他人の支払い意思に左右される。

 作品の所有権を持っているミュージシャンやアーティストなど、もとになるアートの制作者は、それに関連するNFTをミントでき、実際に行っている。だが、作品が美術館に所蔵されてしまうと、NFTの価値が不透明になる。

 著者のサイン入り本がサインなしの本よりも価値があるように、人気作品のアーティストがミントしたNFTは、コレクターの関心を集めるようになるだろう。他方、出版社がサインした本や博物館でミントされたNFTは、コレクターにとってそれほど魅力のあるものにならない可能性がある。アーティストがミントし、美術館に所蔵されているNFTなら、多くの人の関心を集めるだろう。

 逆に言えば、美術館が貴重な作品を所有していたとしても、NFTによる収入源が保証されることを意味しない

◆NFT市場が評価するのは組織ではなくアーティスト
 アート作品と結びついたNFT市場が人気となっている根本的な理由は、買い手がNFTの購入や所有をそのアーティストとの交流手段、アーティストの経済的な支援手段と考えているところにある。

 より広く言えば価値観は分散化にあるといえ、NFTの購入者は、やり取りに仲介者が入るのをあまり好ましく思っていない。

 支援にまつわる価値観の一例として、作品に関連するNFTが販売されるたびにアーティストにロイヤリティが確実に支払われるスマートコントラクトの広がりがある。

 事実、NFT市場への参入を目指す美術館にとって、主要なメリットとされていたマネタイズは、当初の見通しほど単純な話ではないのかもしれない。

 美術館は何よりも、既存コレクションのマネタイズが、作品への公衆へのアクセスを何らかの形で損ない、美術館のミッションや規約に反する可能性を確認する必要がある。次に、コレクションに関連する販売収益が適切な形で再投資される手続きを定めなくてはならない。また、コレクションが単なる公衆への展示物としてではない形で収益を得られるのであれば、こうしたプロセスを通して作品が誤って金融商品として扱われてしまう危険性がある。

 今後、NFTがバーチャルな美術館に新たな機会をもたらすというよりは、従来型のリアルな美術館に経済的な利益をもたらすかは現時点では見通せない。

◆ボラティリティと不確実性がNFTを高リスクにする
 高値で取引されるNFTが注目を集めているが、一瞬にして価値を失う事例もたくさん報告されている。また、暗号資産と同じようにボラティリティも激しい。アーティストのグライムスやエイサップ・ロッキー、プロレスラーのジョン・シナなどが発行したNFTは巨額の損失を出した。

 NFTに依存した資金調達はリスクが高いと思われるほか、慈善団体がNFTを所有するのは適切でないと運営理事会が判断するかもしれない。つまり、自らミントしたり受け取ったりしたNFTが早々に流動化を余儀なくされる可能性がある。

 また、価値のあるNFTが美術館の設立主旨にどのような影響を与えるかについては不確実性がある。NFTは物的な存在でもなければ、芸術作品でもない。展示可能なデジタルのアート作品であっても、そこから派生するNFTとは別物である。

 確かに、NFTはまだ揺籃期にある。銀行など伝統的な金融機関は当初、暗号資産を傍観していたものの、マーケットにおける役割の大きさを徐々に認めるようになった。NFT市場が成熟していくにつれ、アートの世界でも伝統的な組織で同じことが起こる可能性はあるだろう。

This article was originally published on The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

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