分散型金融とは?「DeFi」が抱えるリスクとメリット、ビットコインとブロックチェーンの専門家が解説

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著:Kevin Werbachペンシルベニア大学、Professor of Legal Studies and Business Ethics)

 暗号通貨とそれを支えるブロックチェーン技術の熱烈な支持者は、多くの期待を抱いてきた。

 彼らにとってこれらのテクノロジーは、インターネット上に占める企業の権力政府による自由への侵害貧困、そして社会を苦しめるすべてのものからの救済を象徴する。

 しかし現実的にはこれまでのところ、ビットコインやドージコインなどの人気の暗号通貨が投機的取引の主役を担っており、その価格は驚くほど規則的に乱高下する。

 では、暗号通貨やブロックチェーンはどのような点で期待できるのか。

 その確固たる答えとして最初に挙げられるのがDeFiとして知られる分散型金融であると、新興テクノロジーを専門とする筆者は考える。DeFiはブロックチェーン上において運用される金融サービスを指し、銀行などの仲介者は存在しない。

 一方でDeFiは多くのリスクも伴うため、開発者と管理者は、業界で主流となる前に対策を講じる必要があるだろう。

◆DeFiとは
 これまで、例えば1万ドルの借入を行う場合、まずは担保として、いくらかの資産もしくは銀行への預金が必要であった。

 借り手の財政状態が銀行によって調査され、貸付を行う金融機関は金額に応じて金利を設定する。預金者が預けている資金のなかから貸付金が支払われ、銀行は利子を受け取る。返済に不履行が生じた場合には、銀行は担保を差し押さえることができる。

 すべては銀行の手のなかにある。一連の過程の中心に存在し、預金者の資金を操る。

 株式取引や資産運用、保険など、今日の金融に関連するすべてのサービスについても同様である。チャイムアファームロビンフッドといった金融テクノロジーを駆使したアプリケーションによって処理が自動化されてもなお、銀行は変わらずに仲介者としての役割を担う。その結果、信用コストは増大し、借り手は支払いの柔軟性が十分に得られない

 DeFiは金融サービスについて、ユーザーから資金を預かることなく運営される分散型ソフトウェア・アプリケーションであると再定義し、これまでの決まりごとを覆した

 融資を受けたい場合には、暗号通貨を担保にするだけで、複雑な手順を踏むことなく即座に資金調達が可能だ。「スマート・コントラクト」を作成することで、ブロックチェーン上で利用可能な資金プールを保有するユーザーからお金を借りることができる。銀行の融資担当者は必要ない

 ステーブルコインといわれる通貨に似たトークンを介して、あらゆるものが運用される。ステーブルコインは、ビットコインをはじめとする暗号通貨の特徴である価格の変動性を回避するため、一般的にはドルに固定されている。そして、取引は基本的に、コンピューター・ネットワークに割り当てられたデジタル台帳であるブロックチェーン上で自動的に行われ、手数料のかかる銀行や仲介業者は存在しない。

◆メリット
 この方法を採用することで、これまでの資金調達よりも効率的で、柔軟性があり、安全で、さらに自動化された取引が可能になった。

 そのうえDeFiにおいては、多種多様な金融商品を購入できるような富裕層や投資家と一般顧客を区別することはない。誰しもがDeFiのレンディング(融資)プールに参加し、ほかのユーザーに融資することができる。公債や譲渡性預金よりもリスクは大きいが、利益の見込みも同様に大きい

 そして、これはまだはじまりにすぎない。DeFiはオープンソースのソフトウェアコードを用いて運用されているため、アプリケーションは際限なく組み合わせたり修正したりすることができる。たとえば、現在ユーザーの投資プロファイルに最大の利益をもたらしているサービスに基づいて、複数の資産プール間で自動的に資金を移動させることが可能だ。その結果、eコマース(電子商取引)やソーシャル・メディア上で見られるような急速な技術革新は、伝統的に安定している金融ビジネスにおける標準となる可能性がある。

 このようなメリットがあったからこそ、DeFiが瞬く間に成長を遂げたことは容易に理解できる。2021年5月に高騰を見せた最近の市場では、800億ドル超の暗号通貨がDeFiに預け入れられ、10億ドルに満たなかった1年前からの成長を示した。2021年8月3日時点での時価総額は、690億ドルに達した。

 20兆ドル規模の世界的な金融セクターと比較するとごくわずかなものではあるが、同時に、今後の成長の余地がまだ多く残されていることが示唆されている。

 現在、ユーザーは暗号通貨の投機経験者が大半であり、ロビンフッドのようなプラットフォームに押し寄せた投資初心者はまだいない。暗号通貨保有者のなかでも、DeFi経験者はほんの1%を占めるにすぎない

◆リスク
 DeFiは刺激的ですばらしい可能性を秘めていると考えているが、一方では懸念すべき重大な要素もある。

 ブロックチェーンは、投資につきもののリスクを回避することはできない。リターンの見込みがある以上、必然的に付いて回るものだ。そしてDeFiの場合、価格変動が激しいとされる暗号通貨のなかでもその特性がさらに増長する可能性もある。DeFiによる金融サービスの多くは、借入金によって投機を行うことを助長している。原則として投資家は利益を拡大させるために資金調達を行うが、損失のリスクもより高まる。

 さらに、誤送金の場合に返金処理を行うような銀行や管理者はいない。また、スマート・コントラクトや、そのほかDeFiによるサービス上の脆弱性をハッカーが発見した場合にも、返金する投資家が必ずしもいるわけではない。これまでの2年間に盗まれた金額は3億ドル近くにのぼる。予期せぬ損失に対する根本的な対策は、「投資家に用心する」よう注意を促すことであり、これは金融業界において十分な対策とは到底いえない
 
 テロリストとの取引を禁止しないことや、デリバティブといった規制の対象となっている資産取引を一般顧客に広く解放している点など、DeFiによるサービスには、アメリカや他国の当局が定める規則に違反するものもあるようだ。規則のなかには、果たして従来のような仲介者が存在しないDeFiが導入できるものなのかさえ明確でないものもある。

 アメリカ金融市場の一角に端を発し、世界経済がほぼ崩壊した2008年の出来事は、しっかりと成熟し、厳しい規制の敷かれた伝統的な金融市場であっても、隠れたリスクが要因で打撃を被ったり破綻したりしかねないことを世界に示した。DeFiによって、相互接続されたシステムがこれまで以上に簡単に密かに作成できるようになったが、見事に失敗する可能性がある。

 アメリカなどあらゆる国における規制当局は、このようなリスクを阻止する方法についての議論を進めている。たとえば、DeFiのサービスに対し、マネーロンダリング防止に関する要件を順守するよう強く要請したり、ステーブルコインを管理する規則を検討したりしている

 しかし現時点では、順守するよう強く要請したり、必要だと考えられる要件について、表面的な議論をしているにすぎない。

 旅行代理店から自動車の販売員にいたるまで、仲介業者としての根幹ともなる影響力はインターネットによって損なわれ続けてきた。オープンソースのソフトウェアによって、どれほど大きく状況を変えることができるのか、DeFiもまた一例を示している。しかしながら、この新たな金融エコシステムがもつ可能性を実現させるため、開発者と管理者双方は、自身の性能を向上させる必要があるだろう。

This article was originally published on The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by Mana Ishizuki

The Conversation

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