解説:暗号通貨への課税強化の行方は 米インフラ法案財源

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 ビットコインは、道路や橋とどのように関係しているか?

 米連邦議会では現在、多くのことが審議されている。議会上院は8月10日、1兆ドル規模のインフラ法案を可決した。財源のひとつとして示されたなかに、暗号通貨ブローカーに対して税務報告を義務付けるものがある。具体的には、株式ブローカーが顧客の売上を内国歳入庁(IRS)に報告している方法を採るというものだ。税務コンプライアンスを推進するバイデン政権からの後押しを受け、暗号通貨をめぐる規制は今後さらに進むと見込まれる。

 議会の会計担当者によると、この法案により推定される税収は、今後10年間で280億ドルに上る。

 この税収はすべて、瞬く間に使い果たされてしまうかもしれない。橋を例に挙げよう。連邦高速道路局は、構造上の欠陥があると判定された国内の橋すべてを交換するには、256億ドルの費用がかかると見積もっている。

 結局のところ、実際に手でつかむことのできない通貨は、道路や橋、水道システム、インターネット・ブロードバンドアクセス、電力網の補強のために効率的に使われることになるのだろう。これは、ジョー・バイデン大統領が「一世一代の投資」と称し、1800年代に敷かれた大陸横断鉄道や1950年代に構築された州間高速道路網に比肩するものだ。ここ数年間で暗号通貨市場が爆発的に成長したことを裏付けるものであり、財源として魅惑的な可能性をもちながらもほとんど規制のない市場に監視体制を敷こうとする、政府当局による圧力の高まりが表れている。

 数週間にわたる論争ののち、上院は超党派によるインフラ包括法案を賛成69、反対30で可決した。法案は今後、下院にて審議される。

◆暗号通貨とはいったい何か
 暗号通貨の市場規模は拡大し続け、いまでは1兆8000億ドルになると推定される。暗号通貨は本来、コンピューターのプログラムコードであり、保有者が変わるたびに電子署名が付与される。銀行や政府との関連はなく、利用者は入出金を匿名で行うことができる。自由主義者や、公共に依存せず自給自足に主軸を置く生活を好む人々、そして金融システムが不正に操作されていると考え、リスクを承知で取引を行うミレニアル世代にとって、この性質は魅力的である。

 しかし、暗号通貨は国際犯罪組織やマネーロンダリング、麻薬密売人、ランサムウェア攻撃を行うハッカーにとっても好都合なのだ。

 ビットコインは、暗号通貨のなかでもっとも流通量が多い。現在の価値は1ビットコインあたり4万5000ドル程度であり、約6万4800ドルの高値を付けた4月からは下落している。挑発的なテスラ社のCEO、イーロン・マスク氏が公に発言するたびに急騰や暴落を見せるなど、値動きの激しいことはよく知られている。いまでは、ビットコインでの決済を承諾している企業もある。ほかにもイーサリアムやドージコイン、リップル、ライトコインなどの暗号通貨があり、全体では数千種類に上る。ビットコインをはじめとする暗号通貨は、取引所において米ドルなどの国の通貨で売買できる。

◆政府当局は暗号通貨をどのように捉えているか
 プラス面とマイナス面、両方の見解を示している。暗号通貨は技術革新の源であり、なかでも取引を記録するデジタル台帳、つまりブロックチェーンの開発が目覚ましいとの認識をもつ政治家もいる。

 その一方で、政府規制当局の有力者は警鐘を鳴らしている。バイデン大統領に指名され、米国証券取引委員会(SEC)の委員長を務めるゲイリー・ゲンスラー氏は先日、暗号通貨市場について「不正行為や詐欺、依存が蔓延しており、西部開拓時代のようだ」と言い表し、投資家への保護を強化する必要があると訴えた。SECはこれまで、暗号通貨に関わる詐欺事件に対して数十件の勝訴判決を得ており、さらに市場を規制するには、当局はより強力な権限と財務的支援を議会から取り付ける必要があるという。

 このような状況のなか、連邦準備制度(FR)は米ドルに固定されたデジタル通貨の開発を検討している。いわゆる「デジタルドル」を利用することで、銀行、消費者、企業の間でより迅速な決済が可能になるかもしれない。

 ユーティカ大学で金融犯罪を研究するスザンヌ・リンチ教授は、「連邦当局の話は次元の異なるものだ。現時点ではきわめてグレーゾーンである」と釘を刺す。

◆暗号通貨とインフラ法案はどのような関係があるのか
 暗号通貨をめぐる議論は、大規模なインフラ計画が上院で審議されているさなかに巻き起こった。個人や企業による脱税を取り締まるため、IRSに強制力をもたせ、罰則を導入する構想が立てられていたものの、当局の権限拡大に異議を唱える共和党議員によって取り下げられた。今後10年間で1000億ドルの税収が見込まれていた。

 財源についての協議は白紙に戻され、暗号通貨ブローカーに課す税務報告義務をさらに厳格化する意向が固められた。今後10年間で見込まれる280億ドルの税収は、IRSによる取り締まりから得られるはずであった税収の25%程度でしかない。それでもなお、インフラ法案による財源のなかでは最大規模である。

 これに対して、数名の上院議員から異議が唱えられ、暗号通貨業界やインターネット上の自由を擁護する団体によるロビー活動が大々的に行われた。

 反対の立場を取る人々は、法案中の文言について、ブローカーの定義があいまいであると指摘する。コンピューターの能力を借りて利用者間の取引を検証し、その報酬として暗号通貨を手に入れる「マイニング(採掘)業者」や、ソフトウェア開発者に不当な税務報告義務を課すことで、技術革新が抑圧される可能性があると懸念する。このような事業者は、IRSが収集をはかる利用者情報を取得することはないという。

 反発を受け、文言の修正を反映させた妥協案が提出されたものの、上院での承認が得られず、暗号通貨や税制、ブローカーに関する議論は下院へと持ち越された。

◆暗号通貨と税制をめぐる現状について
 IRSに対してすでに取引報告を行っている暗号通貨ブローカーもいるが、例外的であると専門家は述べる。ブローカーは、暗号通貨取引所に利用者の売買注文を申し込む。

 取引所は、利用者の個人識別情報を収集し、IRSに対して年度報告を行うことが義務付けられている。

 IRSは暗号通貨を、株や金と同様の「資産」であると定義している。つまり、売買や換金によってキャピタルゲインを得た場合、課税の対象になる。

By MARCY GORDON AP Business Writer
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP