広がる選択肢——サブスクリプション型ジャーナリズムの可能性

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◆ジャーナリズムとメディア、広がる選択肢
 『サブスタック』のCEOクリス・ベスト(Chris Best)は、The Vergeのポッドキャストインタビューで、次のように語っている。「わたしたちはメディア会社ではありません。スタッフを何名も抱えた出版社を目指しているわけでもありません。『サブスタック』のポイントは、ライターが独立できることであり、つまり、わたしたちのサービスは何100というメディア会社を生み出しているのです」。『サブスタック』はあくまでプラットフォームであり、ライターをライターとしては独立させつつ、編集補助やバックオフィス機能をウェブ上でサポートするという姿勢だ。『サブスタック』が拡大することで、より多くのマイクロ・メディアもしくはインディペンデント・メディアが生まれる。これは、ジャーナリストやライターにとっての、キャリアの選択肢が広がるという未来の姿かもしれない。同時に、ジョブセキュリティの観点から、彼らがより多くの選択肢を持たざるを得ないという現状に対しての一つのソリューションだとも考えられる。

 最近のVox Mediaからのトップ・ジャーナリスト離脱の動きが興味深い。Vox Mediaにおいて、政治ニュース解説型ジャーナリズムというコンセプトでサイト『Vox.com』を立ち上げたエズラ・クライン(Ezra Klein)は、来年1月からニューヨークタイムズに移籍する。『Vox.com』の同じく共同創業者であるマシュー・イグレシアス(Matthew Yglesias)も独立し、彼は『サブスタック』のニューズレター『Slow Boring』を始めた。さらに、同じく『Vox.com』の編集長を務めるローレン・ウィリアムズ(Lauren Williams)も独立し、来年に黒人向けの非営利ニュースメディア『Capital B』を立ち上げるという。

 Vox Mediaでポッドキャストや映像番組制作など、多様な媒体での発信を手がけてきたクラインは、「燃え尽きた感覚がある。普通のジャーナリストに戻りたいと思った」というコメントをしている。『Vox.com』創設当時は、彼らのようなデジタルメディアの成長と同時に、ニューヨークタイムズやワシントンポストといった老舗のメディアは衰退していくのではないかという予測もあったというが、「デジタルの世界ではゼロ・サム・ゲームではない」と彼は当時の分析を改めた。

 インターネットの普及により、読者は『Vox.com』も『nytimes.com』も含め、何百というさまざまなメディアにアクセスすることができるようになった。同時に、SNSのアルゴリズムとキュレーションによって、人々が(自らの考えとは異なる)多様な視点を受け入れづらくなり、アイデンティティ政治による分断や、分極化が起こるという問題も浮上している。『サブスタック』などを通じて、自分が気に入ったジャーナリストやライターの記事を購読するという流れが、さらなる分極化や情報格差を生むというリスクも考えられる。(米国政治に焦点をおいた、分極化の課題については、クラインの著書で解説されている)

「You are what you eat(健康は食べ物で決まる)」。日々取り入れる情報によってわたしたちの頭脳の健康が決まり、そして社会や(民主主義)国家の健康が決まる。メディア、もしくは情報収集は、クラインがいうように「ゼロ・サム・ゲーム」ではない。質の高いジャーナリズムを維持するためには、発信側だけでなく、読者側の意識的な判断がより求められることになる。同時に、SNSやメディア・プラットフォームが、コンテンツをどれだけ監視・管理するかということも、引き続きの課題となる。

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Text by MAKI NAKATA