アフリカ報道における危険な「シングルストーリー」

ウィリアム・ケントリッジ作品。南アフリカ・ケープタウン、ノーヴァル財団にて|Maki Nakata

 世界中がコロナ危機に直面するなか、当然アフリカ各国もこの課題に直面している。いわゆる途上国が多く位置するアフリカ。「先進国」目線で見れば、医療体制・衛生状態・政治体制に対する懸念や経済打撃など、さまざまなリスク要素が警戒されることは、ある意味、当然の流れである。一方、こうした警戒のメッセージのみが、メディアを通じて繰り返し発信されることは、アフリカにとっても世界にとっても必ずしも望ましいことではない。

◆「シングルストーリーの危険性」
 世界的に著名なナイジェリア人作家の一人、チママンダ・アディーチェは2009年の『TEDGlobal』において「シングルストーリーの危険性」と題した講演をした。現在、オンライン上で2200万回以上再生されているこの講演。シングルストーリー、つまり単一の視点で語られる物語は、ある場所や人に対するステレオタイプを生み、結果的には人間の尊厳を奪ってしまう危険性があるというのがアディーチェの主張だ。

 19歳の時、大学入学のためにナイジェリアから渡米し、「外から見られているアフリカ」を経験したアディーチェ。アフリカが一つの国のように扱われ、また非常に悲惨な場所として見られていることを知る。そして紛争、疫病、飢餓といったネガティブな物語のみが伝えられ、それがアメリカ人の「アフリカ認識」を形成していることを理解した。ステレオタイプ的な物語も真実であれ、偏った物語のみが発信される結果、他者との平等性や共通性よりも違いが強調されてしまうと彼女は考える。

 この講演が行われたのは10年以上前だ。近年、アフリカ各国の経済成長に伴う注目度や影響力の拡大、インターネットやSNSの普及でアフリカの地元メディアや若者たちが発信機会を獲得したことによるアフリカ関連情報の多様化、欧米などのアフリカ系の社会的・文化的存在感の増大といった変化を背景に、アフリカの物語は多様化しつつある。またCNNなど欧米メディアの発信内容も多様化が進み、若き起業家の活躍や、アフリカ発のイノベーションといった明るい物語も少なくない。一方で、エボラ出血熱やボコ・ハラム、ナイロビでのテロといった問題が浮上するたび、「アフリカ=問題」という図式が再構築されがちな現状はいまだに存在する。世界各国が同様に直面するコロナ危機に関しても、危険なシングルストーリーが見え隠れする。

Text by MAKI NAKATA