フェイスブックの仮想通貨「リブラ」、パートナー離脱や反発受け難航

AP Photo / Andrew Harnik

 フェイスブックの「リブラ(Libra)」事業に暗雲が立ち込めている。しかし、大手パートナー企業が離脱したところで、同デジタル通貨事業が撤回されることはなさそうだ。

 10月11日、ビザとマスターカードがリブラからの離脱を発表した。大手Eコマース企業のイーベイや、決済システムのスタートアップ企業であるストライプもすでに離脱を発表している。今月頭には、ペイパルが大手企業としては初めてリブラからの撤退を表明した。アメリカを始めとする各国の規制当局は、リブラに対する規制を強化しており、その最中での大量離脱となった。

 ガートナーのアナリスト、アビバ・リタン氏は、「フェイスブックにとっては大きな打撃となりましたが、事業を諦めるほどのことではありません」と言う。

                                                                                                                 

 10月下旬には、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが米連邦議会に招致され、リブラの事業計画について証言することになっている。同氏の議会証言を予定している下院金融サービス委員会の委員長を務めるマクシーン・ウォーターズ下院議員(カリフォルニア州選出・民主党)は、リブラについて、「スイスを本拠地とする新たな金融システム」だが、規模があまりにも大きいために、失敗に終われば取り返しのつかないことになり、税金による救済措置が必要な恐れもあるとしている。

 リブラ賛成派は、リブラがあれば銀行口座を開設できない何百万人もの人々がインターネットで買い物をできるようになり、国外送金にかかる費用も削減できると主張する。ベネズエラやジンバブエなどハイパーインフレに苦しむ国民にとって、リブラのような代替通貨がいかに魅力的であるかは、想像に難くない。

 しかしフェイスブックといえば、個人情報のずさんな管理と、ソーシャルメディアおよびメッセージング関連事業における支配的立場について、過去に精密調査の実施を求められている。このような企業に、新たな世界通貨の作成を任せることができるのだろうか?

 リブラについては、ソーシャルネットワークに関しても新たな問題が持ち上がっている。現在は仮想通貨に対する規制が緩いとしても、金融規制当局は今後、フェイスブックの計画をどのように監督するのかという問題である。そして単純に、同大手ソーシャルメディア企業に渡る個人情報がどの程度増えるのかという懸念もある。

 リタン氏によると、リブラに反発を示していない国は多数あり、フェイスブックはそれらの国々でなら現状でも容易にリブラを始動することができる。リブラの存続にはマスターカードやビザといったパートナー企業の協力が不可欠だとする意見もあるが、リタン氏はそれを否定している。

「フェイスブックがパートナー企業を募る理由は、恰好がつくからに過ぎません。リブラは元々オープンなブロックチェーンシステムではなく、フェイスブックと、体面上フェイスブックに協力していた数社の金融会社が運営していました」とリタン氏は説明する。

 現在は、この協力体制がなくなったに過ぎない。

 リタン氏は続けて、「忘れてはならないのは、これがブロックチェーンだという点です。そしてインターネット上のものです。阻止できるはずがありません」と指摘する。

◆規制に関する課題
 金融企業には、インターネット企業より厳しい規制が課されている。特にアメリカにおいては、テクノロジー企業が規制の対象外となるケースも多い。ワシントンを拠点とするフェデラル・ファイナンシャル・アナリティクスのマネージングパートナーを務めるカレン・ショウ・ペトロウ氏は、リブラの作成を進める企業について、今回も緩い規制で済まされると思っていたのであれば「ひどく動揺している」はずだと述べている。

 ペトロウ氏はリブラについて、2008年の金融危機を受けアメリカに導入された規制の対象となるだろうと予測している。同ベンチャー事業の監督機関は、その通貨システムが扱う内容に応じて決まるだろう。

 アメリカでは下院金融サービス委員会長がフェイスブックに対し、米議会および規制当局のより詳細な調査が完了するまでは、新通貨計画を一時中断するよう求めている。

 ウォーターズ氏を始めとする民主党議員は7月、フェイスブックに書簡を送り、問題の通貨事業と、新たな通貨システムで使用予定の「カリブラ(Calibra)」と呼ばれるデジタルウォレット事業の停止を求めた。議員らはまた、大手テクノロジー企業の銀行事業参入を禁じる法律の制定を示唆し、フェイスブックを牽制している。

 リブラを始めとするデジタル通貨の疑似匿名性を踏まえれば、フェイスブックとパートナー企業が今後直面する課題としては、デジタル通貨がマネーロンダリングや詐欺といった犯罪に利用される可能性が挙げられる。

 フェイスブックは、既存の金融規制にはすべて従うと主張している。

◆個人情報に関する反発
 ケンブリッジ・アナリティカの事件で打撃を受けた昨年以降、フェイスブックの個人情報の取り扱いはいっそう問題視されてきた。

 フェイスブックがリブラを管理する非営利監督機関を創設したのには、このことが一因となっているとみられる。同社はまた、メイン事業のソーシャルメディアとは別のところでテクノロジーを担当する子会社として、カリブラを立ち上げている。

 しかし、フォレスターのアナリスト、オレリー・ルオスティ氏はフェイスブックについて、「大量の金融データへのアクセスを獲得しようとしています。同社がどの情報を使って何をしようとしているのか、そしてどのような情報保護対策を講じようとしているのか疑問です」と言う。

 リブラなどの仮想通貨は、ブロックチェーンと呼ばれる高度な分散型暗号化台帳にすべての取引を保存する。リブラの場合、取引額は表示されるが、取引の参加者については、少なくともお金が現実の口座に移されるまでは匿名扱いとするようになっている。

 フェイスブックは、カリブラのウォレットアプリを使えば個人の取引内容がブロックチェーンに表示されることはないとしている。しかしこの場合にも、そのカリブラがデータを収集する。

 カリブラは、金融データをフェイスブック広告のターゲティングに利用することはないと主張している。また、フェイスブックと金融データを共有することもないとしているが、データを共有することで「ユーザーを保護する」場合など、いくつかの例外を設けており、これについてはまだ説明が不十分だ。

◆フェイスブックの巨大化問題
 米連邦議会、連邦取引委員会、司法省はいずれも、フェイスブックやグーグルをはじめとする大手テクノロジー企業が過度に巨大化していないか注視している。

 ニューヨーク大学のエレナー・フォックス法学教授によると、リブラが想定通りに始動すれば、フェイスブックは新規事業によってさらなる成長を遂げるだろうが、独占禁止法の重大な違反を警告されることはないという。

「これは新しい分野への草の根的なエントリーであり、実際にイノベーションの進歩を実感することができます」と同氏は言う。
 
 反独占を訴えるオープン・マーケッツ・インスティテュートのサラ・ミラー副ディレクターは、フェイスブックが個人情報の管理について各国規制当局から調査を受けている最中であるのに、同社に世界的仮想通貨の始動を任せるのは「狂気の沙汰」だと非難する。

「連邦取引委員会は、金融情報や通貨システムまでもが危険にさらされる前に、フェイスブックを止めなければならない」と、ミラー氏は言う。

By BARBARYA ORTUTAY AP Technology Writer
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP