静かに悪化する台湾情勢 ペロシ氏訪台から1年

空襲などに備えた避難訓練で地下に身を隠す台北市民(7月24日)|Chiang Ying-ying / AP Photo

◆高まるアメリカの懸念
 そして、アメリカの中国への懸念も日に日に強まっている。たとえば、米インド太平洋軍のアクイリーノ司令官は7月、中国との間で数ヶ月にわたって中断されている軍事防衛面での対話の再開に向けたアメリカ側からの働きかけを、中国側が無視し続けていると警戒感をにじませた。有事になった時点で、双方の間で対話できるかできないかの違いは、その後の情勢を大きく左右しかねない問題だ。台湾情勢をめぐって軍事的緊張が高まっているなか、そのリスクを下げる意味でも、有事になった際も被害を最小限にとどめるためにも防衛当局間の対話は極めて重要になる。

 また、ホワイトハウスは、海洋覇権を強める中国が南シナ海でフィリピンやベトナムなどの周辺国の船舶に対する威嚇をエスカレートさせていると警告した。最近も南シナ海上空で中国の戦闘機が米軍の偵察機に異常接近し、中国船がフィリピン船を意図的に追尾するなど、南シナ海では中国の威嚇的な行動にブレーキがかからない状況だ。

 こういった台湾社会の変化、米中防衛当局間で対話ができない状況、中国軍の行動の過激化は、有事を想定すればすべてマイナス要因として肥大化している。来年1月には台湾で総統選挙が行われるが、短期的にはこれが最も台湾有事が起きる確率を左右するであろう。仮にここで蔡英文路線の後継者が誕生すれば、中国軍の行動がさらにエスカレートする恐れがある。中国はその行方を静かに注視している。

Text by 本田英寿