経済の相互依存は戦争を抑止するのか 権威主義国家が踏み出すとき

アメリカのブリンケン国務長官(左)と中国の習国家主席(19日)|Leah Millis / Pool Photo via AP

◆「経済の相互依存は戦争を抑止する」を壊したプーチン
 しかし、筆者はそうは考えない。確かに、経済の相互依存は武力行使や軍事侵攻というハードルを上げ、国家指導者が選択しづらいオプションにする作用はある。だが、特に権威主義国家の指導者が、自国の主権や領土保全が脅かされると判断した場合、たとえ多くの国家と経済的に相互依存関係にあったとしても、それを壊してでも武力行使に踏み切る場合があると考える。

 それを如実に示したのがロシアによるウクライナ侵攻だ。ロシアと欧州は天然ガスで相互依存関係にあり、プーチン大統領としても侵攻によって欧米から経済制裁を受けることは予測できた。それでも侵攻という決断を下した背景には、一つに「これ以上、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を招くと本当にロシアの存亡に関わる」との政治的危機感があったはずだ。

 そして、これは中国にも当てはまるだろう。習国家主席としては経済を重視する一方、核心的利益など中国の主権や存亡に関わる事態が深刻化した場合、「安全保障>経済」という決断を下すことだろう。我々は中国に対して「経済の相互依存は戦争を抑止する」とのイメージを先行させてはならない。

Text by 本田英寿