経済の相互依存は戦争を抑止するのか 権威主義国家が踏み出すとき

アメリカのブリンケン国務長官(左)と中国の習国家主席(19日)|Leah Millis / Pool Photo via AP

 米中対立が続くなか、アメリカのブリンケン国務長官が訪中し、中国の秦剛国務委員兼外相と北京で会談した。会談では米中間で対話を継続することを確認し、秦氏がアメリカを訪問することで一致した。一方、台湾問題では秦氏が核心的利益の中の核心と改めてアメリカをけん制した。

 訪中という点では、最近イーロン・マスクやビル・ゲイツなど米大手企業のトップらが相次いで中国を訪問。イーロン・マスクが秦氏と会談し、ビル・ゲイツにいたっては習近平国家主席と会談した。中国側も国賓級のVIP待遇でもてなした。

 このような「政治で緊張が続いていても経済は依然として明るい」というような風潮を、我々は何回も目にしてきた。そして、そこではいつも「経済の相互依存は戦争を抑止する」「経済を壊してまでも戦争はしない」というイメージが先行する。しかし、本当に経済の相互依存は戦争を抑止するのか。

◆中国が米大物経営者を招待した理由
 まず、なぜ中国が米大物経営者を招待したのか。その背景には、お金が中国に集まらなくなることへの懸念がある。「ゼロコロナ」政策によって中国経済の成長率は鈍化傾向にあり、国民の経済的不満も強まっている。中国の若年層の失業率が20%とも言われるなか、習政権としては外資の中国離反を強く警戒している。今回の招待の背景にはそれがある。

 また、イギリスのコンサルティング会社のヘンリー&パートナーズが最近、100万ドル以上を投資できる資産を持つ中国人富裕層の国外流出が今年1万3500人に達するとの予測を発表したが、習政権には米中対立が激しくなるなかでもアメリカとの一定の経済関係維持は必須との思惑がある。このように考えると、経済を壊してまで国家指導者は戦争を決断しない、経済依存は戦争を抑止するとの考えが先行しても仕方がないように映る。

Text by 本田英寿