「住民投票」4州から脱出するウクライナ人 留まれば動員対象に

イベントの準備が進む赤の広場(モスクワ、9月29日)|Alexander Zemlianichenko / AP Photo

◆いくつもの検問をくぐり抜けて
 ロシア人として戦うことはできないという思いから、厳しい管理下に置かれるこれらの4州を苦労して脱出するウクライナ人は後を絶たない。

 住民投票前にメリトポリからザポリージャ市(ザポリージャ州の大半はロシア軍支配下にあるが、同市はウクライナ軍制御下)へ脱出した43歳の男性は、ロシアの支配下にある故郷の生活を「首のまわりに巻かれた縄を少しずつ絞められているようなもの」と形容する。37歳の男性も「住民投票が終われば、おそらくウクライナ(の制御下にある土地)には入れなくなる」と考えての脱出だったと説明する。実際、ザポリージャ市で脱出者支援を行っているボランティアによれば、脱出者の数は減少傾向にある。若い脱出者はとくに多く検問所で留め置かれるからだ。(フランス・アンフォ、9/23)

◆故郷や家族と引き裂かれても
 結果的には脱出に成功した40代男性も、3つの検問所で入念な取り調べを受け、恐ろしい思いをしたと語る。一家で脱出を試みた人のなかには、夫が検閲所で留め置かれたため、母子のみで脱出したケースもある。そのうちの一人のイリナは、「ほかに方法がなかった」状況を説明し、「モスクワからバルト諸国、ポーランドを経てウクライナに入った夫とウクライナで再会する」希望を持っていると話す。(フランス・アンフォ、9/28)

 脱出できたことに安心しながらも、大半の人の見通しは悲観的だ。今後恐らく故郷に戻ることはできず、残った家族との再会も難しいと考えているからだ。今回ザポリージャ州のエネルホダルから脱出してきた男性は、クリミア地方に家族がいるが、2014年のロシアによる併合からこの方、家族に会いに行くことは叶わないままだと嘆く(同上)。今回もまた、一度脱出すれば、もう二度と戻ってこられないかもしれない。そういう決意を胸に脱出を図っている。

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Text by 冠ゆき