ロシア軍の少数民族差別 スラブ系より高い死傷率、残虐行為のスケープゴート

ウクライナで任務に就くロシア兵(7月30日)|Russian Defense Ministry Press Service via AP

◆スラブ民族優先 続く植民地的支配
 ある軍事専門家によれば、ロシアの地上軍や空挺部隊の兵士や将校のほとんどは、貧しい町や村の出身だという。社会経済的階層化はロシア軍における長い伝統で、比較的良い教育を受けた都市部の若者は、ほかの軍種に所属する。また昨年まで賃貸物件の大家が「スラブ人以外お断り」と表示することさえ可能で、チェチェンの人権派弁護士はロシアを「レイシスト連邦」と批判。非スラブ系ロシア人の誰もが差別を経験していると述べている。(アルジャジーラ)

 FTによると、少数民族のなかでも親モスクワのチェチェン人は略奪からの戦利品を手に入れ、前線に立つのをうまく避けているが、モンゴル系のブリヤート人は彼らより政治的影響力が小さいため、使い捨てにされているという。

 「ブリヤート自由財団」と呼ばれる活動家グループは、ブリヤート人のアイデンティティに訴え、兵士たちにウクライナから撤退するよう呼びかけている。 同財団のビクトリア・マラダエワ氏は、ブリヤート共和国はほかの民族共和国と同様にモスクワの植民地政策に支配されていると主張。民族の言語と歴史は地球上から消え、お金と資源はモスクワに吸い取られており、モスクワを離れた地域では家は壊れ道路も仕事もないと述べている。同財団によれば、すでに150人以上の兵士が財団の助けで離脱し、さらに多くが離脱を望んでいるという。(同)

 少数民族間の不安が反乱の火種になり得ると考える人々もいるが、小さな反抗が大きく広がると期待するのは楽観的すぎるとFTは述べる。ブリヤート自由財団はロシア国外に拠点を置いており、国内の人々は声を上げるのを恐れている。また、兵士のほとんどは徴兵ではなく高い報酬を目当てにした志願兵であり、兵士が自分たちをロシア社会の一員とみなしている場合も多々あるということだ。

◆露軍増員で苦労 民族部隊結成か?
 米国防総省は8月、ウクライナ侵攻によるロシア兵の死傷者は7~8万人に達したとの推計を明らかにした。プーチン大統領はロシアの軍隊を増員し115万人にするとしているが、米国防総省は増員が成功する可能性は低いと考えている。(AFP

 ポーランドのシンクタンクのワルシャワ研究所は、金銭的なインセンティブを与えても兵士不足は解消しないため、当局は地方に志願兵部隊を結成するように命じたようだとしている。モスクワに拠点を置く大隊を作っても、隊員は非ロシア民族なのが実情で、ダゲスタン共和国、ブリヤート共和国などの貧しい地域では地域に帰属して戦争に行くことを望む男たちが多いという。もっとも、4月にはチェチェン人とブリヤート人の銃撃戦も起きており、民族部隊を配置しても、ロシア軍の士気が上がるわけではなさそうだとしている。

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Text by 山川 真智子