スプートニクV、いまだWHOで承認されず ロシア不満

Pavel Golovkin / AP Photo

◆国内接種は低調、政府の目標は程遠く
 もっとも国産のスプートニクVというワクチンがあるにもかかわらず、国内の接種は進んでいない。Our World in Dataによれば、ワクチン接種を完了した人は30.9%となっている。ジョンズ・ホプキンズ大学のデータによると、推定人口1億4600万人のロシアではこれまでに21万2000人のコロナウイルス感染による死者が出ており、10月9日の感染者数は2万8000人を超えている。

 現在の接種状況では、11月1日までに80%の接種率を達成するとした、ゴリコワ副首相の言葉通りにはなりそうもない。外交問題を分析するモダン・ディプロマシーは、ワクチン接種展開の失敗と、感染に関して当局が矛盾するメッセージを送ってきた結果だとしている。同誌はまた、ロシアでは抗体検査が盛んに行われ、これがワクチン接種率の低さにつながっていると指摘している。

◆海外旅行に不利、ロシアは差別を主張
 欧州連合(EU)やWHOのような国際機関から承認されていないことも、ロシア国内でのスプートニクVの不人気につながっているとAPは指摘する。海外旅行をするにも、国際的に認められたワクチンを接種していなければ入国が認められないからだ。ロシア国内では、EU加盟国ではなく、ファイザー製などの西側製のワクチンが手に入るセルビアなどへのツアーが売り出されているという。

 アメリカの場合は11月から入国のルールが変わり、同国に入国する外国人は、米食品医薬品局(FDA)かWHOの緊急使用承認を受けたワクチンの接種が必要となる。これまでは陰性証明だけでロシア人は入国可能だった。米ロ関係は冷めきっているとは言え、2019年には30万人のロシア人がアメリカを訪れている。多くのロシア人、そして他国のスプートニクVを接種済みの人々が、直接的影響を受けるだろうとワシントン・ポスト紙は述べている。

 WHOの承認の遅れに関し、ロシア側は世界でワクチンを必要とする国があるのに、WHOは複雑な欧米諸国の基準に合わせたプロセスで対応していると批判。ワクチン承認が政治的な駆け引きに使われていると主張している。また、ロシア国家院外交委員会の委員長は、アメリカ入国の新ルールに対し、あからさまな根拠なきワクチン差別だと反対している。(モダン・ディプロマシー)

 10月8日にWHOは承認に関する問題は解決に近づいたと発表したが、承認の時期に関しては言及しなかった(ロイター)。モダン・ディプロマシーは、年末までに承認される見込みだとしており、認可後の普及が進むかが注目される。

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Text by 山川 真智子