グーグルのスマートシティ撤回のトロント、人と自然の「グリーンシティ」へ 波止場地帯開発

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◆スマートシティからグリーンシティへ
 今年になって、ウォータフロント・トロントはキーサイドの再開発に向けての新たな方針を発表した。新たな計画のパートナーは、ドリーム・アンリミティッド(Dream Unlimited Corp.)およびグレート・ガルフ・グループ(Great Gulf Group)。そして再開発の計画には、ロンドンを拠点に活躍するカナダ人建築家のアリソン・ブルックス(Alison Brooks)を筆頭に、一流の建築デザインチームが関与している。具体的には、ガーナ系イギリス人でアジャイ・アソシエイツ(Adjaye Associates)を率いるデーヴィッド・アジャイ(David Adjaye)、カナダの先住民であるモホーク族の建築家マシュー・ヒッキー(Matthew Hickey)が参加。さらに、ヘニング・ラーセン・アーキテクツ(Henning Larsen Architects)と自然環境を活用したランドスケープ・デザインを得意とするSLAというデンマークの2社も参画している。

 今回の提案構想には、デジタル・イノベーションという単語は出てこず、スマートシティ構想は完全に消し去られた。代わりにデザイン提案の中心となっているのが自然や緑、そして人々の暮らしとコミュニティといった要素だ。キーサイド2.0の計画には、800戸の手頃な価格の住宅が盛り込まれており、そのレンダリング画像の建物のバルコニーからは植物が溢れ出している。敷地内には2エーカー(約8000平方メートル)の森が確保され、木造建物の屋上には菜園スペースが広がる。また先住民の文化に特化した芸術センターや、住民の健康の向上を目的としたコミュニティ・ケア・ハブも作られる予定だ。さらに、低炭素化開発、脱炭素コミュニティを目指すとの打ち出しもある。

 新たな計画は、自然とのつながり、コミュニティ醸成とった要素が重視されている。自然環境や人間の暮らしにやさしい暮らしを求める動きは、パンデミックでさらに加速している。デジタル・イノベーションを打ち出したスマートシティからの揺り戻しと、より人と環境に配慮した暮らしのあり方は、今後も都市開発のトレンドとなっていくのではないだろうか。

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Text by MAKI NAKATA