自分はどんな消費者になりたいか 2

© Yumiko Sakuma

 こうした傾向は、消費者運動の前線の風景をも大きく変えている。人種的・性的マイノリティや女性の地位向上や差別撤廃、移民や難民の保護運動から環境運動まで、市民が政府や議員に働きかけると同時に、企業にも働きかけることが、アクティビズムの効力のある手法として存在感を高めつつある。大企業が、どんな政治スタンスを持つ議員や候補に献金しているのか、どんなメディアに広告を出しているのか、マイノリティの従業員に対してどんな福利厚生をオファーしているか、どんな社員教育をしているか、どんな環境対策を敷いているか――こうしたことが、インターネットや社員への聞き取りなどを通してすべて精査される。企業も「どちらの側についているのか」と常に問われる時代なのである。

 当然、保守層のアクティビストや消費者たちも、リベラル側のアクティビストたちとは思想的には反対の立場から、企業に対して働きかけたり、プログレッシブな企業に対するボイコットを呼びかけたりしている。保守層をターゲットにする企業は、たとえば「結婚は男と女のものである」というような古典的な価値観をテーマにしたコマーシャルを打ったりもする。

 いずれにしても、企業としてどんな政治的スタンスを取るのか、それを明確にするよう消費者からの訴求がより強くなっているということは確かだろう。

 消費行動を通じた社会運動や、保守対プログレッシブの闘いが、政治の世界の外に飛び火するというアメリカの現象は今に始まったことではないが、近年は、年齢が若いほど、環境問題などへの懸念は強く、ジェンダー感・家庭観は柔軟で、プログレッシブな傾向が強いという消費者の政治思想のあり方が明確に数字に表れている。

 そして最近、いよいよアメリカのメインストリームの企業がプログレッシブ方向に舵を切り始めたのか、と思わせる事象があった。

 アメリカの保守派にとって、合衆国憲法修正第2条(自衛権)で保障されているとされる「銃を持つ権利」は重要なイシューのひとつであり、全米ライフル協会(NRA)のロビイング力によって、この牙城を崩すのはほぼ不可能に近いと思われてきた。ところが、このところ続いた銃乱射事件を経て、これまで「open carry(銃を隠さず携帯すること)」が法律で保証されてきた州でも、客による「open carrry」を禁じる小売業者が出てきたのである。「open carrry」を禁じることを決めた大手チェーンのリストの中に、スーパーのウェグマンズ、ドラッグストアのCVSなどと並んで、アメリカ最大の小売業者ウォルマートが入っていたことは画期的だった。ウォルマートの売る商品はアメリカでも価格帯が一番低いと言われ、これまで非都市部の保守層に消費者のターゲットを定めてきたが、2019年8月にテキサス州エルパソで起きた銃乱射事件ではその現場にもなっていた。そのウォルマートが、客による銃の携帯を禁じると同時に、拳銃および一部の銃弾の販売を止める措置を取ったことは、これまで「銃を携帯する権利」を強固に信じる保守派の側についていると思われてきたウォルマートが、潮目の変化に対応して、方針をシフトさせた例として受け止められた。

 この変化の直接の原因は銃乱射事件だけれど、トランプ時代になってますます苛烈になる消費者運動のインパクトを象徴する出来事でもある。消費者の力が、動かないと思われてきた山をわずかでも動かすことに成功したのだ。

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