高級化とその後

© Yumiko Sakuma

 施設内に空間を借りる利用者は、インダストリーシティ内の情報ポータルを通じて相互に連絡を取り合うことができる。ここで活動する人たちを対象に、雇用や依頼を発信することも可能だ。入居する企業やショップは、低所得の移民が多い周辺地域から人員を雇うことを奨励される。その雇用をサポートする職業訓練所もある。そういうことを教えてくれたのは、早い段階で入居した知人クリエイターの一人だった。

 16棟の倉庫からなるこのインダストリーシティには、2019年時点で、まだ改築の手が付けられていない棟もある。つまりまだまだ潤沢にスペースがあるのだが、大学機関や学部も少しずつ入居しつつあって、今すでにもう、ひとつの経済圏としての装いを呈している。

 話を聞くと今のところ、インダストリーシティで活動する作り手たちは、いたってハッピーなようだ。キッチンや店舗を開いている人たちも、シティ内で働く人々による飲食や買い物だけでかなり安定した売上が見込めるようで、食の作り手の入居希望者は後を絶たないという。まだ開発途上で今後どうなっていくかわからないとはいえ、現在の活気は否定しようもない。大量の資本とインディペンデントなコミュニティの融合の仕方としては、なかなか好感が持てる。

 もうひとつ、自分のコミュニティのそばに面白い試みが登場した。グリーンポイントとウィリアムズバーグが交わるあたりに2017年にオープンしたA/D/Oである。

 倉庫や工場がまだ残っていたこのあたりに彼らがロフトの改築を始めたとき、一瞬うんざりしたのは否めない。元の倉庫の外壁を残したクリーンでミニマルな内装に、この地域にしては、ずいぶん洗練されていると思った。大きなお金が動いているのだろうと推測した。その後、〈noma〉のチームを迎えて、その前を通るストリートの名前から〈NORMAN〉と命名されたレストランが鳴り物入りでオープンすると聞いた。

 スペースの開業を記念して開催されたワークショップのテーマは、「ユートピアとディストピア」だった。オープンして間もなく足を運んでみると、端っこに置かれた、スペースについての説明バナーのさらに端っこに、小さくミニクーパーのロゴが入っていた。

 A/D/Oという名前は、1959年に最初のMINIをデザインしたチームのコードネーム「Amalgamated Drawing Office」(融合されたドローイングオフィス)から来ている。そのスペースは、パブリックエリア、昼間はカフェとして営業するキッチン、審査によって選考されたアーティストやデザイナーが入居する共同スタジオ、アクセレレータからなる。カフェ兼レストランと隣接するパブリックエリアには机と椅子が並び、誰もが利用できるようになっている。共同スタジオの利用者は3Dプリンターなど最新の設備を使えるが、近隣にある同様の共同スペースよりも家賃は安い。アクセレレータには、同様に審査を経て選ばれたスタートアップが入居し、MINIチームの指導やリソースを使うことができる。

 併設のギフトショップでは入居アーティストたちの作品が買えて、週末にはワークショップやカンファレンスがかなりの頻度で不定期に開催されている。夜にはフルサービスのレストランになるカフェの売上、イベントのチケット販売、プライベートイベントの賃料、共同スペースの家賃などを通じてマネタイズが行なわれているが、それだけで利益を出せているかはさだかではない。MINIがこのスペースをお金のためだけに運営しているわけではないのは明らかだ。

 創作やディスカッションの場を提供することで地元のクリエイティブ層をサポートしながら、競争率の高い選考をくぐり抜けた、ブルックリンを代表するアーティストや作り手、スタートアップのアイデアやスキルにアクセスできる。もちろんMINIにとってのブランディング効果も抜群だ。

 2010年代に入って、コワーキングスペースと呼ばれる空間がアメリカでも日本でも増えた。以来、個人の、または小規模なビジネスを支える空間を貸し出すビジネスはどんどん多様化している。けれど活気があるのは、コミュニティ精神の強い場所だ。ここに書いた2つの場所が今、大企業の資本と周辺コミュニティとの融合の形として、win-winの方程式を示唆していると感じている。

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Text by 佐久間 裕美子

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