自分の街の話

© Yumiko Sakuma

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 私の暮らすブルックリンのグリーンポイントのことを少し書きたい。ブルックリンの北端のエリアで、ポーランドからやって来た移民の子孫、ヒスパニックやアフリカ人などが暮らすワーキングクラス中心の地域だったが、1990年代以降、このあたりにスタジオを構えるアーティストやクリエイティブ層が増えた。家賃や安かったことにくわえ、潤沢なスペースがあったからである。

 2000年代に入ってニューヨーク市による区画規制が緩和され、それまで工業指定地区だったエリアに住宅を建てられるようになったことから、ウィリアムズバーグに近い位置関係もあって、再開発が進んだ。とはいえ、マンハッタンに直接行ける公共の交通機関がないこともあって、ウィリアムズバーグで起きたほど極端な高級化は起きなかった。コンドミニアムに改築されたりデベロッパーに売られたビルも多い一方で、大手企業の進出は意外に少ない。私が住むのはグリーンポイントの中でもさらに北端で、特に移民と個人商店の多い側である。うちから直近のスターバックスは家を出て4ブロック歩いたところにあるけれど、たどり着く前にインディペンデントのコーヒーショップを5軒通り過ぎる。大手のスーパーに行くよりも、チベット人が経営するヘルス系食料品店で生鮮食品を買うほうが便利である。このあたりでまともな食を出すレストランは、だいたいこの辺に暮らす人たちが経営する店だし、いちばん近い薬局もポーランド人が代々やっている店だ。

「絶対に大手は嫌いです」と言うつもりもないのだが、銀行やガソリンスタンドを除けば、大手企業の直営店やフランチャイズ店に頼らなくても生きていけてしまうのだ。それに、個人商店がいきいきと営業するエリアで展開するチェーン店はどうしても荒みがちだ。スーパーにしても、ファストフード店にしても、いまひとつ地元の住民に愛されていないから、良いムードにはならない。

 徒歩圏内に、本屋が2軒ある。うちひとつは、2年ほど前にできた食関係の本専門の〈アルケストラトス〉だ。サンドイッチを出すカフェを併設していて、定期的にディナーのイベントを開催している。この何年かのあいだに、5軒以上のレコード屋もオープンした。ストーナーメタルの聖地と言われるライブハウス〈セント・ヴァイタス〉があって、地元のベテラン・ミュージシャン(ときには有名な顔を見ることもある)たちがカジュアルに実験的な演奏を行なうバー〈トゥルースト〉がある。インターネットで音楽をストリーミングする〈ザ・ロット・レディオ〉の庭では、ビールを飲みながら、世界中からやって来る有名無名のDJセットを聴くことができる。グリーンポイントの住民たちは高級化について文句を言うのが好きだ。けれども、周りを見回してみると、「珠玉」と言えるようなインディーの店がたくさんある。やっぱり幸せなエリアなのだと思う。

 そんな場所だから、「地元経済を大切にしよう」というスローガンが至るところに書かれている。多くの人が当然のこととして大手より独立系の店で買い物をし、リサイクルバッグやリユーザブルのカップを持っている。すでに絶滅種と呼んでもいいようなジャンクストアで他人のガラクタが売られ、他人の手に渡っては再び使われる。ニューヨーク市が開始を検討しているコンポスト(生ゴミ回収)プロジェクトのベータ版の指定地域になったので、ここの住民たちは生ゴミをストリートに置かれたゴミ箱にせっせと運ぶ。環境主義者だと雄弁に物語るバンパーステッカーが貼られた車をよく見かける。ゴミや汚染に貢献しながら都会に住んでいることの「罪」が、コミュニティに共有されているのだ。

Text by 佐久間 裕美子

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