ブルックリンの高級化

© Yumiko Sakuma

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 私が暮らすブルックリンでは、2000年以降、インディペンデントに活動するアーティストやミュージシャンたちの手によってDIYカルチャーが花開いた。マンハッタンからブルックリンに引っ越す人が少しずつ増え、カフェやショップが次々と開いた。前回も書いた〈スモーガスバーグ〉が大ヒットしたことなどもあって、観光地化が始まった。

 それと同時に、ジェントリフィケーション(高級化)という言葉を耳にすることが急に増えた。もともとマンハッタンから押し出された人たちがコミュニティを作ったブルックリンのウィリアムズバーグは特に、地の利の良さも手伝って、急激に開発されることになった。地価が高騰して、最初に飲食店やベニュー(ライブハウス)をオープンして盛り上がりを作ったアーティストたちのコミュニティは少しずつ別の地域へと押し出されていった。かつてインディペンデントの商店が元気に商いをしていたウィリアムズバーグの目抜き通りには、今、アップルストアやホールフーズ・マーケットが大型店を構えている。

 90年代後半に、今でもサウスウィリアムズバーグの地域住民に愛されるレストラン〈ダイナー〉をオープンし、以来、肉屋、パン屋、バー、レストランなどからなるレストラングループに成長させてきたことから、ブルックリン食文化のパイオニアの一人と目されるアンドリュー・ターロウは、複数のパートナーとともにウィリアムズバーグの川沿いに〈ワイスホテル〉を開けるほどになったけれど、昨年、レストランの経営に注力するためにホテルの経営から退いた。

 アンドリューとは一度〈ワイスホテル〉で、当時私がやっていたiPadマガジンの刊行イベントの一貫として、トークをやったことがある。そのときオーディエンスから、「ジェントリフィケーションをどう思っているのか?」という質問が出た。アンドリューの答えは、「自分にできることは、自分の生業においてベストを尽くすこと、自分の周りのコミュニティのことを考えること」というものだった。

 長くこの地に暮らす人々にとって、ジェントリフィケーションという問題は複雑だ。悪として語られることのほうが圧倒的に多い言葉ではあるが、ジェントリフィケーションのおかげで働く場所と雇用が増えてコミュニティにお金がまわるようになった。人通りが増えたり、住民の所得が上がったりしたことで警察がよりアグレッシブになり、犯罪が減って、地域が安全になった。

 ウィリアムズバークと隣接するグリーンポイントに暮らす私個人にとっても、ジェントリフィケーションが複雑な問題なのは変わらない。その地の利から、おしゃれなレストランやカフェができて、自分のコミュニティについて書くことができるようになった。また、女性の私が夜安心して一人でも歩けるようになったのも、ジェントリフィケーションと無関係ではない。一方で、自分の家の家賃が世間の相場と一緒に上がり続けていたら、とっくの昔にこの地では暮らせなくなっていたかもしれない。そして実際、周りでは、住んでいた建物が売られて家主が変わったり取り壊されたりという理由で引っ越しを余儀なくされる、という知人・友人の例を嫌になるほど見てきた。だから、ジェントリフィケーション=悪、にしたい気持ちもわかるのだ。

 ジェントリフィケーションの問題のひとつは、店舗物件の賃料の高騰だ。ウィリアムズバーグのように公共交通機関の便利なところだったら、アップルやホールフーズのような大手が進出するのも頷ける。けれど自分の暮らすグリーンポイントは、それが不便なことから、わざわざ何か用事があってやって来る人か、このあたりに暮らす人しか道を通らない。平日の昼間、それほどの客足が見込める場所ではないのだ。けれども、ウィリアムズバーグとの距離の近さから、同じようなペースで商業家賃が上がり続けてきた。

Text by 佐久間 裕美子

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