ブルックリンの高級化

© Yumiko Sakuma

 どんどん建てられるビルの地上階に次から次へと店がオープンしては、潰れていく。うまくいっているように見えるのは、良心的な家主からスペースを借りている老舗か、コーヒーショップと飲食店だけだ。アパートを見つけるのも一苦労という人気のエリアなのに、街を歩いていると空き店舗の多さに衝撃を受ける。ニューヨーク州の税法には、空き店舗の損失家賃を赤字として計上できる条項があって、スペースを空のまま置いておいても、家賃を下げて貸すよりはいいというシステムになっているのだ。

 こうしたことは、ブルックリンのような急に高級化した地域特有のものかと思っていたら、そんなことはなかった。リテール不振の世の中で、かつてはショッピング街として輝いていたエリアが今はシャッター街化している、という例がマンハッタンにもある。〈マーク・ジェイコブス〉や〈ラルフ・ローレン〉などが店を構えていたブリーカー・ストリートは商業家賃が上がりすぎて、空き店舗が増えた。ニューヨークの中でも住宅の家賃が一番高いウエストビレッジで、今や「テナント募集中」のサインが連なるストリートに、かつての輝きを思い出すことは難しい。

 地域とのつながりのない大企業がやって来て、家賃の相場が上昇する。その地に根を張って商売をしてきた商店が押し出される。地域住民も押し出される。そして世の中の潮目が変わり、元凶だった大企業も去っていくーーニューヨークでは何度も繰り返されてきたサイクルだ。

 問題なのは大企業が去ったあとも、高い家賃は残るということだ。必然的に空き店舗が増える。空き店舗が多数ある、という風景は近隣の商店やコミュニティにとってもいいことではない。全体的に客足が落ちるし、街のムードが荒む。

 近年ニューヨークは「ミドルクラスが暮らせない街」と言われるようになった。家賃高騰で個人商店が商売を続けるハードルは上がり続けている。老舗が店をたたむたびに、ニューヨーカーたちは嘆き悲しむ。そういう市民たちからのプレッシャーを受けて、ビル・デブラシオ市長は現在ニューヨークの州議会に、家主が空きスペースの赤字を計上できる今の税制の改革を訴えている。政治家やコミュニティのリーダーたちから、毎月固定の家賃を払う代わりに、売上によって家賃を変動させる利益共有モデルなど、新たな商業リースの考え方を求める声が出てきている。

 都会のジェントリフィケーションはニューヨークに限ったことではない。ベルリンでも、メキシコシティでも、バンコクでも、ジェントリフィケーションを嘆く声を聞く。

 ニューヨークでは、ウィリアムズバーグの高級化があっという間に進行し、より安い家賃を求める若い層やインディペンデントのコミュニティは、ブッシュウィック、ベッドスタイ、レッドフック、リッジウッドへと、さらに南に東にと新天地を求め、移っていった。

 マンハッタンや、ウィリアムズバーグをはじめとするブルックリンのハブで商売をするのが難しくなったものの、広大なブルックリンにはまだまだ開発の余地があったのだ。

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Text by 佐久間 裕美子

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