あなたが知らない「定年後の危険」 定年前からの“準備”がカギに

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◆「目的のない日々」が心をむしばむ
 仕事を辞めた瞬間から、朝起きる理由がなくなる――。これは大げさに聞こえるかもしれないが、実際に多くの人が定年後に直面する現実だ。

 人は何らかの「役割」を持って生きている。仕事という役割を失うことで、アイデンティティが揺らぎ、「自分は何者なのか」「誰に必要とされているのか」が分からなくなると、無気力や抑うつに陥りやすくなる。

 実際、アメリカの長期追跡調査を用いた研究では、退職後に社会的役割や目的を喪失した高齢者がうつ症状のリスクを大きく高めることが示されている。この調査は多数の高齢者を数十年にわたり追跡しており、役割喪失が精神的健康に及ぼす影響を科学的に裏付けている。

 特に、現役時代に高い地位や責任を持っていた人ほど、その落差は大きく感じやすい。部下を持ち会議で意見を通していた生活が急に変わることで、自分の存在価値が見えなくなってしまうのだ。

 「趣味を持てばいい」という声もあるが、仕事一筋だった人にとっては簡単に見つかるものではない。時間があるのにやることがない状態が続くと、心の健康が損なわれ、最悪の場合は自殺に至るリスクもある。

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Text by 切川鶴次郎