あなたが知らない「定年後の危険」 定年前からの“準備”がカギに

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◆気づかぬうちに進行する「認知機能の衰え」
 定年後、「最近物忘れが増えた」と感じる人は多い。単なる加齢と思いがちだが、実際は退職によって脳への刺激が減り、認知機能の低下が加速するリスクがある。

 欧州の約8000人を対象にした大規模調査(SHAREプロジェクト)では、退職後に記憶力や注意力、処理速度など複数の認知機能が現役時代に比べて明らかに低下する傾向が報告されている。特に単語の即時記憶や遅延記憶に顕著な差が見られ、認知機能は退職後の年月が経つごとに徐々に進行することも示されている。

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 さらに、別の研究では、退職後も積極的に社会活動や趣味を続ける高齢者は、そうでない人に比べて認知機能の低下が緩やかであると指摘されている。こうした活動は脳に多様な刺激を与え、神経回路の活性化や新しい神経細胞の生成を促す「神経可塑性」を高めるとされる。

 仕事での日常的な判断や会話、時間管理、情報整理といった認知的負荷は脳の重要な刺激源だ。退職後はこうした刺激が一気に減るため、読書や計算、学び直し、趣味、地域活動など、意識的に脳を使う時間を持つことが認知機能維持に欠かせない。

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Text by 切川鶴次郎