中国で進む少子化 「一人っ子」の深い爪痕、変わる若者たち

Andy Wong / AP Photo

◆伝統的な価値観から抜け出せない当局
 ミレニアル世代における価値観の明らかな変化に対し、当局のそれは、従来通りに見える。民政部のヤン・ゾンタオ氏は2020年の記者会見で、「結婚と生殖は密接に関連している。結婚率の低下は出生率に影響を及ぼし、それが経済的および社会的発展に影響を与えるだろう」と述べた(CNN)。この問題を重視し、同氏は「関連する社会政策を改善し、恋愛、結婚、家族に前向きな価値を確立するよう国民を導く宣伝活動を強化する」と発言している(同)。つまり、恋愛のような情緒的な分野まで政府が調整できると考えているわけで、そのあたりにずれを感じずにはいられない。

◆離婚を減らすための制度も裏目に
 結婚を増やすとともに中国政府が減らしたいのは離婚だ。そのため、中国政府は昨年、離婚申請に30日のクーリングオフ期間を設けることを決め、今年1月1日にこれを発効した。クーリングオフ期間中に、あわよくば離婚を思いとどまらせたいというのが施行の目的だ。しかし皮肉なことに、これは昨年年末3ヶ月の駆け込み離婚を増やす結果となった。ニューヨーク・タイムズ紙(2/26)によると、この期間の離婚数は、前年と比べて13%も増加した。都会ではこの傾向がより強く、北京では36%、深圳では26%の増加となっている。上海に至っては、年末の2週間で53%の増加を記録した。

 しかも、国民はこの新たな規制を歓迎していないという。多くは「国家による市民のプライバシー侵害」とみなしているのだ。

 また同じく中国は、今年から民法で、配偶者の一方が、家に関わる責任をより多く引き受けた場合、離婚時に、もう一方に補償を求める権利を認めると決めた。これにより先日初めて、夫に、離婚した妻への5年分の家事と子供の世話に対する補償金5万元(約84万円)の支払いを命じる判決が下された。中国初の判決とあって注目されたが、原告が要求した16万元(約268万円)と比べてかなり少ない額だ。実際SNS上には「5年の家事に84万円?男の得じゃないか!」や「フルタイムの乳母は6ヶ月でももっと高いだろう」といった声が上がっている(20 minutes、2/25)。考えすぎかもしれないが、この補償金の額に、男女平等感を打ち出したいものの、離婚は増やしたくない中国当局の悩みが透けて見えるような気がする。

 結婚、出産を国策の一部と考える当局と、個人的な問題だと捉えるミレニアル世代の溝は、なかなか深そうだ。

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Text by 冠ゆき