突然の「残業代帳消し」「契約終了」…コロナで失業したスイスで働く日本人たち

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◆美月さん 仕事は楽しかったが、残業が多かった
 スイスに住む以前、日本の和食レストランの調理場で働いていた美月さんは、キャリアアップを図ろうと和食レストランで働くためにスイスにやって来た。スイスでは和食ブームが続き新しい店が次々とオープンしているが、美月さんの勤務先は、昼はビジネス客でほぼ満席になり夜は常連客を中心ににぎわって、多数の顧客を引きつけてきた昔から知られている味処だ。その人気和食レストランも新型コロナウイルスの影響を受け、8年働いてきた美月さんは苦境に立たされた。

 美月さんは月~土曜のうち5日勤務し(週休2日)、副料理長を4年、料理長を1年務めた。調理人たちはほとんどが男性で常時4人いて、忙しいときに数人増やす体制だった。夏は長期休暇に出かけるお客さんが多いため、美月さんも多少余裕を持って仕事はできたが、1年を通してやるべきことは山積みだったという。勤務時間内ではその業務をすべてこなすことはできず、残業は当たり前だった。

 残業代は支給されず、超過時間分を、ときどき勤務時間を短くして消化していた。消化しきれなかった残業時間を精算してもらえるのは、退職時のみとのことだった。美月さんが聞く限り、飲食店で残業代を払うところはかなり少ない。「残業代がしっかりと出ると、従業員が時間を守らずダラダラと残業する恐れがあるためだと思います」と美月さんは言う。

 今春、ロックダウンが実施されることになり、美月さんの店も一時閉店を余儀なくされた。スイス人のオーナーは、いい機会だと言って壁や床の修理をしテーブルに磨きをかけ、数年前から調子が悪かった調理場の冷蔵庫をようやく入れ替えた。オーナーは衣料ブティックも経営している。和食に惚れて和食レストランを経営している様子はなく、経営という仕事自体が好きなタイプだと美月さんは話す。

「オーナーは、いつも数字だけを見て判断していました。現場に入って様子をうかがうということが全然ありませんでした」

Text by 岩澤 里美