パリの激動と新型コロナ……人気和食店「Shu 修」が語る向かい風

Satomi Iwasawa

◆スタッフの給与は国が補償、店主にはなし
 食材費は月の半分が過ぎていたため1ヶ月分を支払った。リース契約のもの(たとえばレジのシステム)の支払いは止められないため払い続けている。

 店舗賃料に関しては、仲介業なしの家主との直接契約のため、家主と相談したうえで一時的にストップさせてもらうことができた。今後の賃料支払いがどういう形になるかは未定だという。従業員(調理補助と給仕)は自宅待機し、国から給与の8割が支払われるため、まずは一安心だろう。しかし店主には補償金はないそうだ。

「閉鎖になって間もなく、店のことを任せている税理士に相談したら、今後、企業の税務が一体どうなってしまうのかと冷静さを失っていらっしゃいました」

 そんなふうにみなが慌てたものの、鵜飼さんは、毎春のイースターには「Shu 修」もほかの店と同様に休暇を取るため、今年はリフレッシュ期間が少し早まったと思えばいいと自分に言い聞かせた。だが、感染状況が悪化するのを見て、閉店は長期戦になると覚悟した。

◆コロナ禍直前、2019年末の鉄道ストも悲惨
 新型コロナウイルスの猛威は店に打撃を与えているが、似たようなことは以前にもあった。しかも1度だけではない。パリではここ数年、世間を揺るがす出来事が続き、そのたびに客足は遠のいたという。

 まずは、世界に衝撃が走った2015年1月のシャルリー・エブド襲撃事件、そして11月の同時多発テロ事件だ。

 シャルリー・エブドは1社の特定の人たちを標的にしたものだったからか、「Shu 修」の客の減りはひどくなかったそうだ。11月のテロは劇場やレストランにいた人たちを無差別に襲撃し、しばらくはパリには近づかない方がいいと各国からの観光客たちが遠ざかった。日本からの観光客や留学生も激減したため、日本人客相手の日本人の通訳者などが失職したという話は筆者の耳にも入った。順風満帆だった「Shu 修」の経営に初めて大きなひびが入った。

「同時多発テロのあとのクリスマスシーズンは、それまでにないほどの落ち込みでした。通常、パリの常連の方たちは旅行したり帰省したりして、入れ替わるようにヨーロッパ各国、アメリカ、日本からの観光客が増えて繁盛するのですが。年末が狙われるかもしれないと、たくさんの方がパリを敬遠したのでしょう」

 次は2018年11月に始まり、年を越しても続いた政府への大規模な抗議活動の黄色いベスト運動だ。パリでは暴動が発生してルーブル美術館なども閉鎖し、休校にもなった。

「パリは毎週すごいことになっていました。店がある界隈は危険な地区ではないので、通常通り営業していましたが、過激な映像がニュースで流れたことも影響したのでしょう、多くの観光客がパリ旅行を取りやめてキャンセルが相次ぎ、またも年末の稼ぎ時だったので困りました」

 3度目は、昨年12月初めから今年1月にかけて起こった年金改革反対のストライキだった。全国的に大部分の公共交通機関がストに入り、パリも混乱した。またしても年末の出来事だった。

「朝夕は、バスと地下鉄は若干運行したのですが、押し合いへし合い、口論、そして殴り合いもありました。ラッシュアワー時、道は大渋滞して、まさにカオス状態でした。歩くか、自転車か、電動キックボードなどで通勤通学する人が多く、みんな日に日に疲れがたまっているようでした。そのため、レストランで夕食という気分にはならず、忘年会も送別会などもことごとくキャンセル。最終的にキャンセルになった予約数は、前年と比べられないほど悲惨でした。飲食店は、軒並み売り上げが30〜50%減ったと聞きました」

 ようやくストが終わり、2月に客もだいぶ戻ってきてほっとしたのも束の間、コロナ禍がやってきたのだった。

Text by 岩澤 里美