パリの激動と新型コロナ……人気和食店「Shu 修」が語る向かい風

Satomi Iwasawa

◆再開後の課題は山積み テイクアウト開始も簡単ではない
 鵜飼さんは店を早く再開したいという気持ちを抱えつつ、封鎖緩和と同時に開店するのは最善ではないとジレンマを感じている。懸念の一つは、封鎖前と同じ、もしくはそれを上回る利益が得られるかどうかだ。

「再開したら従業員の給与の国による補償は終了します。店の利益が十分あれば給与支払いは問題ありませんが、確実な見込みはできません」

「理由の一つは、店の客層のためです。地元の常連さんはたくさんいますがフランス人はかなり頻繁に外食するという習慣がなく、やはりパリの土地柄で観光・商用のお客さまもたくさんいらしてくださり、そのバランスで経営が成り立っています。ヨーロッパ内の行き来が許可されるのはこれからですが、今年いっぱいは短期的にパリを訪れる人は少ないと予測されています。また、地元の方たちも経済的影響があった人は、しばらくは節約志向になって外食を控えるかもしれません」

「もう一つには、客の人数制限をしたうえでの再開になるかもしれないことです。もし座席の半数のお客様しか入店できなければ、当然利益は少ないです」

 客や従業員や自分が感染した場合、全責任を負えないのではないかという点も心配だ。

「細心の注意を払っていても、感染が終息していない限り感染する可能性はあります。店内で誰かが感染したら、その家族にも影響が及ぶことになるでしょう。その時点で営業ができなくなり、そのときの給与支払いができるかと想像するとリスクは高いです。また感染者が発生したという事実は、やはり店の名前に少なからぬ傷をつけることになるので、その点も心配です」

 経営や感染のリスクを極力抑える方法としては、テイクアウトやデリバリーは得策に思える。ロックダウンが始まったとき町は静まりかえっていたそうだが、4月に入ってテイクアウトができる店を多数見かけるようになり、デリバリーも繁盛しだしていた。

 鵜飼さんもお持ち帰り弁当の構想は練っている。しかし、ここにもクリアすべき課題がある。一番の気がかりは串揚げという「Shu 修」のコンセプトとお弁当とがしっくりと結びつかないことだ。日本食一般ではなく串揚げ専門のため、どんな料理をお弁当として提供したらいいか悩んでいる。見栄えも大切な要素だからパッケージも大切になってくるが、デザインも品質も価格も納得いくパッケージを入手するのは難しい。

 お弁当の価格設定にも悩む。デリバリーを始めたフランス料理店のなかには、店の料理をそのままパッケージに詰めて1食5~6千円という例もある。もし「Shu 修」のお弁当を心持ち高めの値段にしたら、果たしてどれくらい買ってもらえるかは未知だ。

「コロナ禍で飲食店の淘汰が進むと思います。いままさに、とても強い向かい風のなかを歩いている気分です。2店目を持ちたいと考えたこともありましたが、最近は和食が以前ほどには流行らなくなってきましたし、今回のコロナ感染を受けて店を多少縮小することも考えています。今年は忍びの年です。来年には、たくさんのお客様にお越しいただきたいですね」

Text by 岩澤 里美