いま「観光客ウェルカム」の国々の事情

スリランカのバンダラナイケ国際空港の職員(1月20日)|Eranga Jayawardena / AP Photo

◆7月から観光客を受け入れているモルディブ
 インド洋に浮かぶ多くの島と環礁から成るモルディブが、すべての観光客に国境を開いたのは昨年7月15日のことだった。入国に必要なのは、渡航前96時間以内の検査の陰性証明書で、到着予定時刻の24時間前までにオンラインで提出する旅行者健康宣言書式に添付しなければならない。CNN(1/21)によれば、「イギリス変異株の出現以来、イギリスからあるいはイギリス経由でモルディブに到着する乗客は、10日間の隔離に置かれなければならない」ことになった。しかし驚くことに、この決まりは「観光客には適用されない」というのだから、観光客誘致にかける切実さが感じられる。実際、朝日新聞(7/17)によれば、同国では「約50万人の住民に対して、3倍以上の年間約170万人の観光客が訪れ、観光が国内総生産(GDP)の3割を占めている」。モルディブの環境も観光客受け入れを容易にした。というのは、同国の観光の目玉は島々を取り巻く美しい海ときている。観光客用ホテルの多くはリゾートホテルで、海上に立つコテージのような独立した宿泊施設も少なくないため、隔離に等しい環境で観光客を受け入れることができる。

◆陽性なら費用を肩代わり:ドバイ
 ドバイも7月から海外観光客に国境を開いている。変異株の発現を受け、過去14日間に南アフリカ共和国に滞在した人の入国は禁止になったが、それ以外の国からは基本的に隔離なしで入国できる。入国者は、96時間以内のPCR検査による陰性証明書を必要とするほか、到着後再度PCR検査を受ける義務があり、ここで万が一陽性が判明した場合は、ドバイ保健局のガイドラインに従って隔離を受けなければならない(エミレーツ航空、1/21)。

 驚くことに、ドバイを本拠とするエミレーツ航空は、昨年7月23日から12月31日の同社フライト利用客には、この隔離期間中の費用(一日100ユーロ×14日)や15万ユーロを上限に医療費を肩代わりするという手厚いキャンペーンまで行っていた。

 アラブ首長国連邦経済の中心地ともいえるドバイ首長国は、「年間約1600万人(2017年)の観光客が訪れる世界有数の観光消費地」(ジェトロ)として知られる。昨年10月から2021年4月にかけては「Connecting Minds, Creating the future(心をつなぎ、未来をつくる)」をテーマに「MEASA(中東・アフリカ・南アジア)初」の国際博覧会、ドバイ万博が予定されていたが、パンデミックの影響で、開催は一年遅らせることが決まった。パンデミック以前のドバイ万博公社が「会期中に2500万人、そのうち7割を海外からの来場者」(ジェトロ)と見込んでいたことからもわかるように、外国からの集客は万博の成功に不可欠なのだ。

 パンデミック下において、それぞれの事情や環境により、観光客に国境を開くことを決めた国々。難しい選択を迫られる国は、これからも出てくることだろう。

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Text by 冠ゆき