UAEがイスラム法緩和、酒・同棲など容認 観光・投資を重視

AP Photo / Jon Gambrel

 アラブ首長国連邦(UAE)は11月7日、イスラム教にもとづく同国の個人身分法の大幅な見直しを発表した。未婚カップルの同棲の許可、アルコールの規制緩和、「名誉殺人」の犯罪化などが盛り込まれる。

 個人の自由の拡大に向けた今回の動きからは、イスラム教の法典にとらわれず、観光客や企業、富を求める人々などを呼び込める西洋的な国となることを目指し、変貌を遂げようとしているUAEの思惑が見て取れる。同国ではイスラム法をめぐり、外国人を巻き込んだ裁判沙汰が起こっており、彼らの母国からも強い反感を買ってきた。

 UAE国営の首長国通信(WAM)は、イスラム法の改革はUAEの経済的・社会的地位を押し上げ、同国が掲げる「寛容の原則を強化する」ことを目指したものだと報じているが、電撃発表された改革の詳細についてはほとんど伝えていない。今回の法改正を支える政令については、政府系列のザ・ナショナル紙が概要を大きく報じたが、ソースは明記されてない。

 イスラム法の改正に踏み切る前には、UAEはアメリカの仲介によりイスラエルと国交正常化に向けた歴史的合意を果たした。これにより、イスラエルからの観光客と投資を呼び込めると期待されている。超高層ビルの立ち並ぶドバイでは、万国博覧会の開催に向けた準備も進んでいるところだ。国の命運をかけた一大イベントは、UAEの商業を活性化し、2500万人規模の集客をもたらすという期待のもと10月に行われる予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて1年延期となった。

 ザ・ナショナル紙がすぐにでも実施の見通しと報じたイスラム法の改正は、急速に進むUAE社会の変化に追いつこうとする指導者らの取り組みの一環でもある。

 同性愛やジェンダー・アイデンティティといったタブー視されているテーマを扱った作品を発表しているUAEの映像製作者、アブドゥッラー・アル・カービ氏は、「進歩的かつ先験的な新法律ができるということで、これほど幸せなことはありません。2020年はUAEにとって、厳しくも転機となる年だと思います」と喜びの声を口にしている。

 今回の改正には、21歳以上の人々による飲酒、酒の販売および所持に対する罰則の廃止も盛り込まれる。酒類やビールは、UEA沿岸部の豊かな都市ではバーやクラブで広く取り扱っているが、政府発行の許可証を持っていない人には、アルコールの購入、運搬、保管は許可されていなかった。しかし法改正にともない、飲酒許可証の取得を禁じられていたイスラム教徒にも、自由に飲酒できる機会が与えられる。

 もうひとつの改正点は、UAEでは古くより犯罪とされていた「未婚カップルの同棲」の許可だ。外国人カップルであれば、自由度の高い金融の中心地、ドバイなどでは見逃してもらえることもあったが、摘発される恐怖は常につきまとっていた。ザ・ナショナル紙によると、イスラム法で禁じられている自殺行為もまた、処罰の対象から外れる。

 これまで以上に「女性の権利を守ろう」とする動きが広がるなか、政府は「名誉犯罪」を擁護する法律を撤廃するとしている。「名誉犯罪」とは部族内の慣習で、一族の名を汚したとされる女性を近親者の男性が暴行したとしても、起訴を免れるというもので、広く批判を集めていた。乱交や宗教的・文化的規律の違反など、女性の「不名誉な行為」を帳消しにするという名目で行われた犯罪に対しては、そのほかの暴力と同様の処罰が与えられるようになった。

 約9対1の比率で外国籍の住民が市民の数を上回るUAEでは、法律の改正により、結婚、離婚、相続といった問題をめぐって外国人がイスラム法の裁判沙汰に巻き込まれることを防ぐことができる。

 今回の発表によると、同性愛や異性用の衣服の着用、公共の場での愛情表現など、過去に外国人が投獄される原因となった行為についても、国の慣習を侮辱する行いとはみなさないものとする。

 砂漠地帯に広がる7つの首長国からなるUAEには、伝統的なイスラム教の価値観が根強く残っている。しかし「責任ある国政のためのクインシー・インスティテュート」で中東を専門とするアネール・シェライン研究員はツイッターで、改革は大規模だが「ドバイやアブダビといった主要都市ではとくに、UAE市民の人口がとても少ないため、さほど大きな反発を受けることなく進められるでしょう」と述べている。

 UAEでは世襲統治が続いており、反対勢力への弾圧が以前から批判を集めている。いまもなお、政党や労働組合の結成は違法だ。

By ISABEL DEBRE Associated Press
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP