米風刺ニュース番組の司会者が降板へ 過渡期を迎えた深夜トークショー業界

Jae C. Hong / AP Photo

◆ノアの引退が示唆するもの
 ノアは『ザ・デイリー・ショー』の司会から引退すると発表したものの、最終日や後任などといった詳細については明らかにしなかった。ノアの今後についても、具体的な発表はなかったが、もっといろいろやりたいことがある、ほかの言語を学んだり、世界各地をいろいろと回ってショーを展開したりすることに時間を使いたいといったような説明があった。月曜日から木曜日まで、毎日収録と放映がある番組のために物理的な移動や時間を制限されるというワーク・ライフスタイルに終止符を打ちたいという気持ちがあるようだ。米公共ラジオNPRのテレビ批評家のエリック・デガンズ(Eric Deggans)は、ノアの活躍や才能をたたえるとともに、ほかのレイトショーの司会を務めるといったようなキャリアの選択肢は、ノアにとってはむしろ「降格」だと解説している。

 人気コメディアンらが司会を務める米国のレイトショー番組業界自体、縮小し始めているという背景もある。たとえば、昨年には米国のベテランコメディアン、コナン・オブライエン(Conan O’Brien)の番組や、『ザ・デイリー・ショー』の「特派員」として活躍してきた女性コメディアン、サマンサ・ビー(Samantha Bee)の看板番組がキャンセルになった。英国出身の人気コメディアン、ジェームズ・コーデン(James Corden)も来年には自身が司会を務める番組から引退すると発表している。実際、レイトショーが以前ほど視聴者を獲得できなくなっているとフォーブスは指摘する。ノアの『ザ・デイリー・ショー』は開始当初のエピソードの視聴者数が約350万人、その年の平均は110万人、今年8月の平均はさらに65%も減少して38万人まで落ちた。この数字は90年代の同様の番組の視聴者数である500万人前後とは比べ物にならない。一方で、『ザ・デイリー・ショー』のユーチューブチャンネルのフォロー数は1000万を超えている。

 オンラインでのストリーミングなど、視聴者にはさまざまなエンターテインメントの選択肢があるなか、レイトショー番組の業界自体が過渡期を迎えている。同時に、放送局や人気番組のようなブランドに依存せずに、クリエイターやエンターテインメントが自由に活躍できる選択肢が増えている。ノアのような才能を持ったエンターテイナーは、個人のブランド力で今後さらに活躍の場を広げていくに違いない。

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Text by MAKI NAKATA