ミスから偶然生まれたティラミス…「生みの父」カンペオル氏死去

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◆偶然の産物 妻とシェフが貢献
 ティラミスの起源については、北イタリアのトレヴィジオという街の売春宿で性欲を促す薬として使われていたという説など、長年にわたって論争が続いていたとBBCは解説している。Wanted in Romeによれば、ティラミスの世界的成功により、その起源を主張する州間での商業的な争いも勃発していたという。

 しかしティラミスのレシピそのものは、カンペオル氏のレストランで開発されたという説が有力だとBBCは述べている。「アレ・ベッケリエ」は、カンペオル氏の家族が1939年に開業し、第二次世界大戦の終わりにカンペオル氏が経営を引き継いでいる。

 そのレストランのシェフとして働いていたロベルト・リングアノット氏が、アイスクリームを作っている最中に誤って卵と砂糖の入ったボウルにマスカルポーネ・チーズを落としてしまった。ところが偶然混ざり合った味が大変おいしかったため、それをカンペオル氏の妻、アルバ夫人に伝えた。それから2人は試行錯誤でコーヒーに浸したレディーフィンガー・スポンジ(指状に細く焼いたスポンジケーキ)を加え、ココアを振りかけてみた。こうして完成したものを、「ティラミス(私を引っ張り上げて=私を元気づけて)」と名付けたという(BBC)。米公共ラジオ網NPRは、カンペオル氏は「ティラミスの父」と呼ばれているが、実際はアルバ夫人とリングアノット氏の発明だったとしている。

◆オリジナル・レシピ認定済み、本物の味も復活
 世界的なイタリアン・デザートとなったティラミスだが、カンペオル家はこの発明の特許を取得しなかったため、さまざまなレシピが生まれてしまったという。そこでイタリア料理アカデミーは、2010年にオリジナル・レシピを認定した。よって、日本でもよく見かけるフルーツや抹茶を使ったものは、ティラミスとは名乗れないことになる。ちなみにティラミスにはラムやマルサラなどのアルコールが使われることもあるが、認定レシピでは子供にも食べやすいようにアルコールは使われていない。

「アレ・ベッケリエ」は2014年に世界金融危機による観光の低迷で閉店してしまったが、インデペンデント紙によればカンペオル氏の息子のカルロ氏によって再オープンしている。本物のティラミスを食べるチャンスは、まだ残されているようだ。

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Text by 山川 真智子