ルース・カーター、衣装を通じたストーリー・テリング 『星の王子2』で表現したもの

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◆人気作品の続編に対してのアプローチ
『星の王子 ニューヨークへ行く 2』は、1988年に公開された人気コメディー映画の続編で、今年3月にアマゾンプライム・ビデオでリリースされた。オリジナルの映画における原作・主演はエディ・マーフィー(Eddie Murphy)、助演は‎アーセニオ・ホール(Arsenio Hall)。30年以上の間を置いて公開された続編では、マーフィーが主演だけでなくプロデュースも手掛け、ホールをはじめとする多くのオリジナル・キャストが登場し、話題を呼んでいる。オリジナルの物語は、アフリカの架空の王国ザムンダのアキーム王子が、両親が勝手に決めた相手との結婚を拒み、ニューヨークへ旅立ち、貧乏学生のふりをしてクイーンズの安アパートで生活しながら、自分の理想の結婚相手を見つけるという話。ザムンダ王室の装飾にあふれた衣装の数々が印象深く、ファッションの視点からみてもアイコニックな作品である。

『星の王子 ニューヨークへ行く 2』と『ブラック・パンサー』は、どちらもアフリカの架空の国を舞台にした物語で、アフリカ系(アフリカ大陸・ディアスポラ)の文化に影響されたファッションが採用されているが、カーターは2作品において少し異なるアプローチをとった。『ブラック・パンサー』では多くのリサーチを行ったうえでワカンダ王国のファッションの世界感をつくりあげたのに対し、今回はコメディという軽めのジャンルであったこともあり、よりファッション性を重視したと語っている(リファイナリー29)。ワカンダ王国が、最新技術と軍事力を持った最先端の国であったのに対し、ザムンダ王国はパーティーに出かけて楽しむような場所であるというのが彼女の解釈だ。また、ワカンダ王国は植民地支配の影響を受けていない国という設定であったため、植民地時代の貿易でオランダから輸入されたカラフルなプリント布であるダッチ・ワックス(インドネシアの布が起源)を避ける必要があったが、今回はファッション要素として取り入れられた。ダッチ・ワックスは、オリジナル作品においても象徴的な存在であった。

 カーターは、オリジナル作品の象徴的なファッションを参考にしつつ、新しいストーリーといまの時代の文脈を踏まえたアプローチをとった。彼女はバズフィードとのインタビューで、キキ・レーン(Kiki Layne)演じる王女の副次的な物語と、女性のエンパワーメント的な側面を示すために、スポーツウェアを多く投入したと語っている。オリジナルではマーフィーがポロ競技の格好をしているシーンがあるが、続編ではレーンがタンクトップとスポーツ・タイツを着用し、ザムンダ王国の旗をまとった戦士として登場する。また、グローバルな現代アフリカの文脈を加味したザムンダ王室のインクルーシブな世界感も、英国的な影響を受けたオリジナルとの違いの一つだ。南アフリカ人デザイナーのラデュマ・ノゴロ(Laduma Ngxokolo)やパレサ・モクブン(Palesa Mokubung)など、アフリカ系デザイナーとの衣装開発を行っただけでなく、インドのファッションの要素も取り入れたという。あえて文化をミックスさせることでグローバルな現代アフリカを表現した。衣装はいくつかの例外を除いて、ほぼすべてが一から製作されている。

 衣装は視覚的に強い印象を与えるからこそ、特定の人物や国、文化に対する人々の認識に直接影響する。公平なリプレゼンテーションと、インクルーシブな表現が求められるなか、衣装デザイナーであるカーターの視点がもつ役割は、映画の世界にとどまらず現実世界においても、今後ますます大きくなっていくのではないだろうか。

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Text by MAKI NAKATA