『エミリー、パリへ行く』の陰で評価作が選外 “賞”ビジネスに見る白人至上主義

Netflix via AP

 先日発表されたゴールデングローブ賞候補作品に、パリを舞台にした若き白人アメリカ人女性の奮闘を描いたドラマ『エミリー、パリへ行く(Emily in Paris)』が2部門にノミネートされた。一方、黒人キャストを中心にシリアスな性暴力のトピックを描いた『I May Destroy You(邦題未定)』が高評価を得ていたのにもかかわらずノミネートされなかった。この事実には『エミリー、パリへ行く』の脚本家自身も怒りを露わにした。白人至上主義の壁がいまだ立ちはだかる米エンターテインメント業界。その変化は一進一退を繰り返しているようにみえる。

◆評価されてしまった『エミリー、パリへ行く』の陰に
『I May Destroy You』はガーナ系イギリス人のミカエラ・コーエルが製作・脚本・共同監督・主演を務めたドラマ作品で、2020年6月、英BBC Oneおよび米HBOで公開された全12回のシリーズ番組。『I May Destroy You』の原題には「潰してやる」といったニュアンスがあるが、いくつかの解釈が可能だと監督自身も説明している。このドラマは、コーエル自身も経験した性暴力のテーマを扱う。コーエル自身が演じる若い女性、アラベル(Arabella)が性暴力被害にあったのち、人生を取り戻していくストーリーが描かれている。シリアスなテーマを扱いつつも、ユーモアの要素もあり、高く評価されていた作品だ。

 しかし『I May Destroy You』はゴールデングローブ賞にノミネートされなかった。一方で、『エミリー、パリへ行く』のノミネートには脚本家自身も驚きをみせた。同作品も、アメリカ人女性である脚本家のデボラ・コパケン(Deborah Copaken)が、20代の何年かをフォトジャーナリストとしてパリで過ごした自身の経験が反映されている番組だ。Netflix配信中の本作品は、パンデミックとステイホームの状況下、現実逃避的なコメディ番組として人気が出た一方で、フランスやアメリカ人女性のステレオタイプ的な描写や、中身の薄さなどから批判の対象にもなっている。(ニューヨーカー誌の記事では、同作品のジャンルを、ストリーミングサービスとともに発展した「ambient TV、環境番組」、つまり環境に溶け込んで可も不可もないような癒し番組と表現しており、このジャンルでは、同質性が重要なためダイヴァーシティは見られず、結果的に白人偏重の作品となりがちであると指摘している。)

 コパケンは、ゴールデングローブ賞ノミネートのニュースを受け、英ガーディアン紙に寄稿。自分は『エミリー、パリへ行く』を書いたがまさかノミネートされるとは思っておらず、そのことは喜ばしいものの、黒人キャストを中心に性暴力のトピックを描いたドラマ『I May Destroy You』がノミネートされなかったことに怒りを覚えると発言した。彼女は、自分の番組が批判の対象になっていることにも触れ、黒人への差別と暴力に対する運動、Black Lives Matterが世界で巻き起こるなか、白人のアメリカ人がその「白人の贅沢」を売り物にしたような番組が、人々にわだかまりを与えうることは十分に理解できるとコメント。加えて、人種の問題だからというだけでなく、単にコーエルの作品が当然の評価を得なかったことに対して、怒りを表した(しかし、実際は人種問題が構造的に今回のような状況を作り出しているため、構造的な人種差別と権威団体による作品の適切な評価の問題を切り離すことはできない)。ゴールデングローブ賞では、スパイク・リー監督の『Da 5 Bloods』もノミネートを逃した。

Text by MAKI NAKATA