政治、経済、モラル チュニジアを襲う3つの危機

チュニジアのカイス・サイード大統領(右)|Slim Abid / Tunisian Presidency via AP

 チュニジアといえば、古くはカルタゴの中心として栄えた歴史を持ち、最近は民主化運動「アラブの春」のきっかけとなるジャスミン革命を起こした国だ。しかも、アラブの春で民主体制への移行に成功した稀有な国でもある。そのチュニジアが現在、政治的、モラル的、経済的に三重の危機に直面している。

◆大統領によるクーデター
 2019年の選挙で選ばれたサイード大統領は当時、憲法学専門の教授であったことなどから清廉な印象を持たれていた。若い世代が寄せる期待も大きく、この時の選挙では18~25歳の投票率が37%以上と、同国におけるこの年齢層の投票率としては突出した高さだった。

 だが2021年7月にサイード大統領は首相を解任し、議会を凍結。全権を自らに付与。2022年には憲法を改正し、早期解散による議会選挙を実施。新しい議会は大統領解任を検証する権利を持たず、議員一人での法案提出が不可能となり、議員10人の署名を必要とし、しかも大統領の提案が常に優先するなど、大統領の権限を強化した。

 サイード大統領が廃止した2014年憲法は、国家分権化の原則などを掲げるもので、アラブの春の大きな成果とみなされていた。西側メディアは独裁時代に戻ろうとするかのようなサイード氏による一連の動きを「クーデター」と呼んではばからない。

Text by 冠ゆき