衰退する欧米主導の世界 ロシアのウクライナ侵攻から1年

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◆現実路線に徹する中国、インドなど
 それを示す出来事が昨年3月にあった。国連総会でロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議が採択されたが、賛成が欧米や日本など141ヶ国に上った一方、ロシア、同国と友好関係にあるベラルーシ、シリア、エリトリア、北朝鮮の5ヶ国が反対し、中国やインドなど35ヶ国が棄権した。

 中国の習国家主席は昨年9月、侵攻以降対面で初めてプーチン氏と会談した際、ウクライナ問題に話が及ぶと無言を貫き、その後ドイツのショルツ首相やバイデン大統領と会談した際、核兵器使用や威嚇に反対すると間接的にもロシアを否定した。インドのモディ首相も昨年秋、経済フォラームでプーチン氏と会談した際、「今は戦争をしているときではない」と明確に侵攻を批判した。

 だが、両国とも機能主義、実利主義のもと、イデオロギーや価値観でロシアと対立する欧米とはまったく違う外交を展開している。中国もインドもロシアへの制裁を実施しないどことろか、経済制裁で安価になったロシア産エネルギーへのアクセスを強め、両国のロシア産原油や天然ガスの輸入量は増加している。

 また、上述の141ヶ国のなかでもロシアへの姿勢は千差万別で、非難決議で賛成に回ったものの、それ以上の非難や制裁に踏み切る国はむしろ少数派だ。実際、ロシア制裁に踏み切った国は欧米や日本など30ヶ国あまりしかない。東南アジア諸国連合(ASEAN)でもロシアを非難して制裁を行っているのはシンガポールのみで、インドネシアやマレーシア、タイ、ベトナムなど日本と良好な関係にある国々も極めて現実路線に徹している。アフリカや中南米諸国も同様だ。この1年、我々はこれまで以上に欧米の力が衰退した世界に直面している。

Text by 本田英寿