新たな中東リスク 日本のエネルギー安全保障を脅かすイラン

イランのライシ大統領|Vahid Salemi / AP Photo

 もうすぐロシアによるウクライナ侵攻から1年となるが、それは同時にエネルギー安全保障の視点から、中東がいかに日本にとって重要かを示すことになった。日本の中東への石油依存度は9割を超え、その安定は日本にとって死活問題となる。ウクライナ侵攻後、日ロ関係は完全に冷え込んだが、三菱商事と三井物産はロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」に引き続き出資することを決定した。日ロ関係の行方によっては、プーチン政権がサハリン2関連で日本に対して対抗措置を取ってくる可能性も排除できず、同出資はまさに大きな賭け、リスクとも言えよう。ウクライナ侵攻により、「ロシアはリスクだ、長年の日本の課題である石油調達先の多角化は難しい」と思った人も少なくないだろう。一方、近年テロも減少し、比較的落ち着いていた中東情勢は今年悪化する恐れがある。その最大の要因はイランだ。

◆欧米が抱くイランへの懸念
 今日、アメリカなど欧米が抱くイランへの懸念事項は主に4つある。1つは核開発で、バイデン政権は発足当初はイラン核合意への復帰を掲げ、トランプ政権で冷え込んだ米イラン関係の雪解けが期待された。それに対してサウジアラビアが強い不満を示したことが思い出される。しかし、以下3つの懸念も関係し、アメリカのイラン核合意復帰は事実上、夢物語になっている。昨年8月、国際原子力機関(IAEA)はイランが核開発をめぐって合意違反を繰り返し、核開発が極めて急速に進んでいると強い懸念を示した。

 2つ目は人権である。昨年9月、イランで髪の毛を覆う「ヒジャブ」を身につけていなかったとして、20代の女性が宗教警察に拘束され死亡した。その事件に端を発したデモが全土に拡大したが、イラン当局は市民に対して容赦ない弾圧を続け多くの死傷者・逮捕者を出す事態となり、人権面からの懸念が強まっている。

 3つ目はイランによる親イランシーア派武装勢力への支援である。中東には、イラクのカタイブ・ヒズボラ(Kataib Hizballah)やカタイブ・サイード・アル・シュハダ(Kataib Sayyid al-Shuhada)、イエメンのフーシ派、レバノンのヒズボラ、バーレーンのアル・アシュタール旅団(Al Ashtar brigades)などのように、イランが背後で支援する組織があるが、特に現在もイラクで活動する親イラン武装勢力は米軍権益への攻撃を続け、フーシ派はサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)に向けて高性能ミサイルを発射するなどしており、欧米はそれらを支援するイランに強い不満を抱いている。

 そして、4つ目が今日も大きな懸念であるロシアとの関係強化だ。昨年、ウクライナ戦争で劣勢に立つロシアに対し、イランが自爆型ドローンなどを大量に供与していたことが判明した。イランは見返りにロシアから軍事支援を受けていると見られ、両国の軍事的結束を図っている。これに対し欧米はウクライナ戦争でロシア側に立つイランへの圧力を今後強化すると見られる。

Text by 本田英寿