ペロシ訪問が転機、高まる有事リスク…今年の台湾情勢を振り返る

避難訓練に参加する台北市民(7月25日)|Chiang Ying-ying / AP Photo

◆ターニングポイントとなったペロシ訪台
 そして、8月のペロシ米下院議長の台湾訪問は緊張をいっそう高める結果となった。中国外務省は事前に、ペロシ訪問が実現すればさまざまな対抗措置を取ると警告し、習国家主席も7月にバイデン大統領と電話会談した際、火遊びをすれば必ずやけどすると釘を刺していた。

 しかし、訪問が実現したことで中国は軍事的威嚇を本格化させた。中国は戦闘機による中台中間線越え、台湾離島へのドローン飛来、台湾周辺でのミサイル発射、台湾を包囲するかのような軍事演習などあらゆる手段を使って台湾や米国を軍事的に威嚇し、ミサイルの一部は日本の排他的経済水域(EEZ)内にも着弾した。これまでにない規模の対抗措置によって、台湾有事をめぐる局面はまた一段階リスクが上昇した。

◆始まった習政権3期目
 このような緊張のなか、中国では10月に共産党大会が開催され、習政権3期目が始まった。3期目の最高指導部人事を見ても、習氏周辺は習氏の側近たちで完全に固められ、誰もそれに異を唱えられる環境にない。

 習氏は2035年までに社会主義現代化をほぼ確実にし、中華人民共和国建国100年となる2049年までに社会主義現代化強国を進めていく方針を示し、台湾についても統一は共産党の悲願であり実現されなければならず、そのためには「武力行使を放棄しない」との姿勢を示した。また、台湾独立に断固として反対し、絶対に抑え込む趣旨の内容を新たに党規約に盛り込むなど、台湾統一がノルマという環境が整ったといえる。

 11月の米中首脳会談でも習氏はバイデン大統領に対し、「台湾は中国の核心的利益のなかの核心」であると強調したことから、来年この問題で米中対立はさらに深まると見られる。

 このように今年台湾情勢がいっそう緊迫化した背景には、台湾の蔡英文政権が米国など欧米諸国との結束を強化したこと、それによって中台関係が冷え込んだこと、米中対立において台湾情勢が最重要イシューになってきていることなどがある。これが今後日本の安全保障にどう直結するか、我々はそれを真剣に考える必要がある。

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Text by 本田英寿