ペロシ訪問が転機、高まる有事リスク…今年の台湾情勢を振り返る

避難訓練に参加する台北市民(7月25日)|Chiang Ying-ying / AP Photo

 今年、ウクライナ情勢とともに大きく変化したのが台湾情勢だ。ウクライナ有事と違い、台湾有事は日本の安全保障に直結する問題であり、また日本企業の依存度、シーレーンの安全という観点からも日本への影響はウクライナ有事とは比較にならない。

◆変わる台湾政府や市民
 台湾の外交部長は今年初めに欧米メディアの取材に応じた際、「中国は台湾侵攻を円滑に実施するため軍事力の増強を続けており、台湾はそれに対抗すべく防衛力を強化する必要がある」と中国への警戒感をあらわにしたが、今年それを反映するかのように中国の軍事的威嚇が相次いだ。

 それ以降、中国の戦闘機や電子戦機、爆撃機などが台湾の防空識別圏に侵入し、台湾が実効支配する東沙諸島(プラタス諸島)の空域を通過するなどの事態が繰り返された。それによって、台湾政府や台湾市民の行動にも変化が見られるようになった。

 台湾の国防部長は、市民の軍事訓練義務の期間を現行の4ヶ月から1年に延長する考えを示し、台湾市民からもそれを支持する声が増えている。また、台湾政府は4月、中国による軍事侵攻に備えた民間防衛に関するハンドブックを初めて公表した。ハンドブックは台湾有事の際に市民が身を守るためのアドバイスを数々指摘し、スマートフォンのアプリを使った防空壕の探し方、水や食料の補給方法、救急箱の準備方法、空襲警報の識別方法などが詳細に記述されている。最近は、台湾に進出する日本企業の間でもそれが有効活用されつつある。

 台湾市民の間では軍隊に入隊する希望者が増えるだけでなく、有事に備えて退避対策や自己防衛対策、食料備蓄、応急手当などのノウハウを身につけようとする動きが拡大している。

Text by 本田英寿