バイデン・習会談に見る今後の米中関係 関係改善の兆しと変わらぬリスク

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◆最大の争点となる台湾
 しかし、両国の間では不可逆的な溝も改めて浮き彫りとなった。習国家主席はバイデン大統領に対し、台湾問題は中国の核心的利益のなかの核心であり、米国が越えてはならない一線だと伝えた。8月初めにペロシ米下院議長が台湾を訪問したことで、中国は報復的措置として台湾を取り囲むような軍事演習を実施。中国軍機による中台中間線越えや台湾離島へのドローン飛来などが激増するなど、中国はこれまでになく台湾への軍事的圧力を強めた。

 中国外務省は事前に、ペロシ氏の台湾訪問が実現すれば強い対抗措置を取らざるを得ないとけん制した。また、習国家主席も7月下旬にバイデン大統領と電話会談した際、「火遊びをすれば火傷する」とけん制していたことから、ペロシ氏の訪台によって中国の不満は最高潮に達した。そのなかでの対面会談となり、習氏は改めてバイデン大統領に釘を刺したとみられる。

◆今後の米中関係
 米中対立がこれまでで最も冷え込むなか、双方が対話継続と関係改善に向けて取り組む姿勢を示した意義は大きい。今後ブリンケン国務長官が中国を訪問する予定もあり、安全保障や経済、サイバー空間、宇宙、技術など多層面での米中対立が緩和されることを期待したい。

 しかし、ことはそう簡単ではない。今回の会談で得られたのはそれくらいで、根本的な問題は何ら改善されておらず、双方とも妥協する意思はまったく示していない。その長期化は次第に関係の冷え込みを招き、偶発的な軍事衝突などによって対話の道が閉ざされるリスクは常に残っている。特に、経済力や軍事力で米中の力の拮抗が続いており、2030年代にはそれが逆転する予測もある。そういった変えられない事実によっても、米中対立がより先鋭化する恐れもある。

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Text by 本田英寿